雑貨屋 旅のしっぽ(1)
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ"の経営者
「どっ、どうしよう」
「どうしましょう……」
「大丈夫ですよ、特に混乱もありませんし順番に申し込みを受け付けていきましょう」
長蛇の列を前にして俺とムツキが混乱している中、ミスズは商家の娘という事もあってか客の扱いに慣れているようで一人落ち着いている。
バスツアーの定員十六名をオーバーする事は確実なので今日は抽選の申し込みを受ける事になる。専用の机を用意し準備万端な俺たちは顔を見合わせ頷き合った。
「「「雑貨屋、旅のしっぽ オープンします!」」」
入口のドアを開けると同時に客が流れ込み申し込み用のテーブルはすぐに埋まった。
並んでいた客は今のところ全員がバスツアー目当てで、残念ながら雑貨屋の方には誰も居ない。
しかしムツキもそんな事は想定済みだったらしく特にがっかりした様子はなかった。
と言うより今はフル稼働で受付に当たっているので、そんな事を気にしている余裕はないという表現が正しいのかもしれない。
「結構な申し込みが集まりましたねっ」
「もう三百人は超えてるだろうし抽選にしておいて良かった……でもここから十六名って相当な倍率だよな」
「噂になっているとは聞いていましたが、私もここまでとは」
列はお昼近くになっても消える事は無く、今日のお昼ご飯は抜きになる事を俺たち全員が悟った。
「ありがとうございました!」
だんだんと申し込みを終えた人達が雑貨にも興味を示し始め、当初は申し込みに付きっきりだったムツキも徐々に自分の雑貨販売が忙しくなって来ている。
それはつまり、残りの人達を俺とミスズの二人で処理しなければいけないという事。
朝よりだいぶん短くなったが、まだまだ続く列を見て俺たちは反省した。毎回こんな事をやっていたら仕事量の割には利益が少なすぎてやってられない。申し込み方法を変えるか、参加費をグンと高くするか……。
「……一般参加のツアーはしばらく休止だな」
「賛成ですっ」
――長かったオープン初日が終わった。
最終的にバスツアーへの申込者は四八〇名になり、後日抽選をして当選者には直接通知を届けに行くと伝えてある。バスの定員は十六名だが殆どの人は数名での参加を希望しているので実際には数軒を回るだけで済むだろう。
「お疲れ様でした。二人とも今日は本当にありがとう」
「いいえ、シュウ君もおつかれさまでしたっ」
「ホントこんなに忙しかったのは久しぶりですよ!」
さすがに夕方になると列は無くなったが、それでも物珍しさからかお客さんが途切れる事は無く、ムツキが言うには今日だけで一か月分に相当する雑貨の売り上げがあったらしい。
特にトラブルも起きなかったで、これは大成功だったと言っても良いだろう。
しかし俺達にはまだやらなければいけない事がある。
「「「ご飯を食べに行きましょう」」」
そう、今日は全員お昼ご飯抜き。そしてまだ夕食も食べていない。お店の後片付けもそこそこに俺たちは黒猫亭へと向かった。
《ガラガラゴローン》
「いらっしゃ……あ、おかえり」
「「「開店祝い特別メニューを三人分!」」」
三人で声を揃えて無茶なオーダーをしてみる。
「はいはい、何かスペシャルなやつを作りますよ」
そう言うとネネさんは奥へと消えて行き、少し経った後でいつもよりほんの少しだけ豪華な料理がテーブルに並べられた。
「「「いっただきます!!」」」
明日からはもう少し気楽にやりたいな……。