共同出店計画(4)
【今回の登場人物】
シュウ…バスと一緒に転移した主人公
ミスズ…シュウと一緒にいる商家の娘&バスガイド
ムツキ…王都へ上京し雑貨屋を開いた少女
※次話以降、シュウ・ミスズは省略します。
出店計画はとんとん拍子に進みお店はあっという間に完成した。
当初は借りた建物を中で二つに分けてムツキ雑貨店と俺のバス会社(?)のスペースを別々にする予定だったが、俺の方はテーブルが一つあれば十分。
ほとんどスペースを必要としない事が分かったので、建物全てをムツキへ譲る代わりに雑貨屋を窓口として使わせて貰うという事になった。
これによってバスが話題に上がればおのずと雑貨店の名前も出る事になる。宣伝にもなるからお互いの為になって良いのではないかというのが理由だ。
そして雑貨屋の名前は “雑貨屋 旅のしっぽ” が採用された。
元々ムツキは “猫のしっぽ” という名前で雑貨屋を開こうと考えていたらしいが、バスの窓口や発着所も兼ねているという事から「旅」という単語を入れる事になった。
「いよいよ “旅のしっぽ” 開店ですね」
明日はいよいよお店の開店日。
ムツキの方はマルセルさんの所から雑貨を卸して貰える事になったし、時々ハラジクの街へ出向いて今までの仕入れ先からも仕入れる事になった。その時はもちろんバスを使って。
それに加え、これからバスに乗って旅立つ人向けにと水や食料・王都の特産品なども販売している。正直なところ俺の印象としては街の雑貨屋というよりバスターミナルに併設するお土産屋に近い気がした。
そして俺の方はと言うと、バスの存在自体はもう既に王都民なら誰もが知っている。
しかし今までは紹介でしか依頼を受けていなかったので、大半の貴族や王都民からすればバスという物は一部の高位貴族だけが使うとても縁遠い存在と感じていたらしい。
まあそれで俺が困る事は無いけれど、せっかく窓口を作ったんだし少しは身近に感じて欲しい。そろそろ暑くなって来た事もあって俺はお店のオープンと同時に民衆向けの「レイク村湖水浴ツアー」を計画していた。
「レイク村へのツアー、参加者集まるかな……?」
「大丈夫ですよ、もし集まらなかったら私が行きますから」
ムツキが一緒に来たら誰が店番するんだよ。でもオープンに当たっては広告を作って宣伝もしたし、参加費は一泊二日で銀貨五枚と相当な破格に設定した。これは王都で宿屋に一泊する金額とさほど変わらない。
バスの座席は半個室型で通路を挟んで左右八席づつの合計十六席、最近は半個室型の高速バスが増えているとは言え、その中でもこのバスはかなり豪華な造りである。
マルセルさんから聞いた話によると王都では相当話題になっているらしいし、十六人ぐらいは何とかなるだろう。
オープン当日の朝、俺とムツキ、ミスズの三人は早起きをして店へと向かった。まだ辺りは薄暗く日も昇り切っていないが、初日だし色々と開店準備をしなければいけない。
そして王宮の近くまでやって来た所で何やら列ができているのが見えた。
「こんな朝早くから何かイベントでもあるのかな?」
「今日は私の雑貨屋のオープン日なのに! まさか何者かによる妨害工作でしょうか!?」
「確か今日は何も無かったと思いますけど……」
やや怒り気味のムツキと首をかしげるミスズ。しかしよく見るとその行列はずっと真っすぐ俺達の店である「旅のしっぽ」の方へと続いていた。
―― ※ツアー参加希望者が十六名を超えた場合は抽選で決定します ――
マルセルさんから「暴動に巻き込まれて死にたくなければバスツアーの広告にこの一文を必ず入れなさい」そう言われていた意味が分かった。
行列の先頭は「雑貨屋旅のしっぽ」まで続いており、その数はざっと四~五百人。何人かに聞いてみた所、バスツアーへの参加申し込みで並んでいると言う。
「今日は忙しくなりそうだな……」
「私の雑貨、売れるかな……」
「そろそろオープンですよっ!」
こうして俺たち三人にとって怒涛の一日が始まった。