共同出店計画(1)
【今回の登場人物】
シュウ…バスと一緒に転移した主人公
ミスズ…シュウといつも一緒にいる商家の娘
ムツキ…ハラジクの街で雑貨屋を営む少女
お店の共同経営を持ち掛けたのにはちゃんとした理由がある。
以前開催した貴族中心のバスツアーによってバスの安全性と利便性は正しく広まり、王都の誰もが知る事となった。
その為か、俺が暮らしている黒猫亭やバスを停めているミスズの所へ訪れる依頼人が増えてしまい、最近は迷惑をかけてしまっている。
ネネさんは “ついで買い” してくれるお客さんが増えるなら別に構わないと言ってくれているけど、依頼にやって来た客が黒猫亭で何かを買ったり飲食している場面を俺はまだ見た事が無い。
そこでちゃんとした窓口となる店舗が欲しいんだけど、なにしろ依頼で店を空ける事の多い俺一人では回らない。
そんな時にムツキが王都で店を出したいと言い出したじゃないか! これをうまく利用すれば共同店舗という建前で店番が確保できるかもしれない……そう思った俺はムツキの前に餌を差し出してみた。
「最近はバス関係の依頼も増えたし、俺もそろそろ拠点が欲しいなって思っていたんだ。でもほら、一人だと何かと大変だし」
「まあ、それは分かりますけど……」
「それにバスの知名度は王都で結構高いから、お店ができたとなれば集客効果もあるだろうし、依頼に来た人がついでに雑貨も買ってくれるかもしれないよ」
「……なるほど」
だんだんとムツキの目つきが変わって来るのがわかった。よし、もう少しだ。
「それに共同ならお店を開く時の資金も半分で済むし……あ、いやバスを停める場所とか色々必要だから少し広めの所にして、むしろ俺の方が多めに負担するよ」
「ほ、本当ですか!?」
「その代り、俺が留守の時にお客さんが来たら依頼を聞いて欲しいんだ。まあタダでっていうのも悪いから、代わりに依頼を受けてくれた時は手数料を払うって事でも良いし」
「是非一緒にやりましょう!!」
キラキラと目を輝かせ乗り気になった様子のムツキは即答だった。そして予想外の場所からもう一人、
「はい、はいっ! 私も何かやりますっ!」
「でも……ミスズは自分の家の方を手伝った方が良いんじゃないの?」
ミスズの家は王都一の規模を誇る商会で、雑貨をはじめとした様々な物品の流通に携わっている。その家の長女となればそれなりの影響力もあり、今までも調印の旅に出たりと時々手伝っていたらしい。
そもそも、規模では天地の差がある物の一応ミスズの商会とムツキの雑貨屋はライバル店という事になるので、手伝ったりしても大丈夫なんだろうか。
「大丈夫です。お父様も私は自由にしていいって言ってますし、手伝う事なんてほとんど無いですから。それどころか私がシュウ君の所で働くって言えば大歓迎されると思いますけど」
「大歓迎って何で?」
「ちょっと言い方は良くないかもしれませんが、こんな影響力の大きい物を自分の力の届く範囲、近い場所に置いておけるとなればそのメリットは計り知れません。むしろ私達から完全に独立してって言う方がお父様は渋られると思いますよっ」
「あーなるほどね」
今までマルセルさんには散々お世話になっているしミスズの事もあるから、たとえバスの置き場所を変えたとしてもひいきにしていくつもりだった。まあどっちみち王都へ帰ったらミスズのお父さんにも話してみよう。
「そういう事ならバスへ乗った時の補助を今までみたいにお願いしたいけど……」
「もちろんですっ!」
店番と共にバスガイドも一人正式に確保できた。ムツキの引っ越しが一段落したらお店を探さなければ。