ムツキの決断(1)
【今回の登場人物】
ムツキ…ハラジクの街で雑貨屋を営む少女
ハラジクの街の中心を通る大通り沿いというかなり立地の良い場所にある私 の雑貨屋は、先祖代々続く伝統のある店で若くして亡くなった父から受け継いだ物。
今は私が一人で経営していて、亡き父、そしてご先祖様達の為にもこのお店は自分が守って行かなければ! そういう強い思いが私には……残念ながら無い。
なぜかと言うと、周りにはおしゃれな物を売る店が次々にできているのに私のお店だけは昔のまま……まるで時代に取り残されてしまったかのような、このお店だけちょっと残念な感じなのです。
もちろん、ネネさんのように私の店で取り扱う珍しい雑貨を目当てにやって来てくれるお客さんはいるけれど、決して繁盛しているとは言えず、根本的にどうにかしないと……というのが今の課題。
そして事件が起きたのは、その日のお昼過ぎ。
私がいつものように店番をしていると、遠くの方から豪華な装飾が施された数台の馬車が列を成してお店の前の大通りを進んで来るのが見えた。
暇だった事もあって窓から身を乗り出し野次馬心理でそれを眺めていた所、だんだんと近づいて来たその馬車は私の店の前で止まった。
絶対この人たちお客さんじゃないよねと私が軽くパニックになっていると、中から身なりの整った一人の男性が降りて来て話しかけて来た。
「こちらにムツキ様と言う方はいらっしゃいますか?」
「えっ、あ、はい、ムツキは私ですけれども……」
「私は王宮のハラジク支部から参りました使いの者です。ムツキ様へ王宮からの事付と預かり物をお届けに参りました」
「……!」
“王宮”という単語を聞いた瞬間、私の頭にはある一つの事が思い浮かんだ。
それは王都へ滞在していた時の事。珍しい山菜の生える場所があると聞いて、別に食べようと思った訳じゃないけどちょっとした興味本位で王都の周りの森を散策しに出かけた。
その時に偶然森で倒れているクラちゃんを見つけて、結局付きっきりで看病する事になったから山菜探しどころでは無かったんだけれど……後から聞いた話によればそれは希少性が高く見つけても採取してはいけない物だったらしい。
「まさかあの山菜を取ろうとしていた事がバレて……いやでも結局見つからなかった訳だしセーフの筈……」
そうブツブツと呟く私。
「先日、森で魔物に襲われ倒れていた国王陛下の孫娘、クラ様をお助け頂いたとの事、心より感謝致します。これは国王陛下からのお礼です、どうぞお受け取り下さい」
そう言うと硬貨が入った革袋を私に手渡し、そのまま一行は帰って行ってしまった。暫くは一体何が起こったのか分からず、数分が経ってようやく話を理解した私は――
「クラちゃん、王宮の人だったんだ……という事はきっと記憶が戻ったんだね、良かった。」
そして手元にある袋を見た時、たぶん周りに人が居れば引かれている程私の顔はにやけていたと思う。王様からのお礼って言ってたし、この重量感だからそれは仕方ないよ。
「いっぱい入ってる……まあ、王様からのお礼って言う位だし……うん、これは銅貨、いやもしかしたら銀貨が五○〜六○枚って所かな」
このハラジク領は、いくら街とは言え王都と比べてもそこまで発展しておらず、平均的な収入は一ヶ月で金貨一枚(銀貨百枚)程度。
この革袋の中身が全部銅貨だとすると、王様のお礼にしては少し少ないかなという気がして、銀貨に期待しつつ革袋をそっと開けた。
「……え」
袋を持ったままの状態で私の動きは完全に止まった。そこに入っていたのは金色に輝く硬貨が五○枚。
あたりをキョロキョロと見回し慌てて店の奥へ引っ込んだ私は、しばらく考えた後で革袋を服の中へ隠し、武器としてフライパンを片手に持った。