記憶を失った少女(2)
【今回の登場人物】
シュウ…バスと一緒に転移した主人公
ミスズ…シュウといつも一緒にいる商家の娘
クラ…森で保護された記憶を失っている少女
アルン…バス体験ツアーに参加していた王宮貴族の一人
「では王宮の前まで行きますので、守衛さんも一緒にバスに乗ってください」
「乗せてくれるのかい! いやー悪いね」
そう言うと守衛さんはバスに乗り込み、フカフカの椅子や車内へ一通り驚きながら感動している。
「では王宮まで移動します」
「しゅっぱーつ!」
ミスズの掛け声で俺はゆっくりとアクセルを踏み込み、他の守衛さん達に見送られながら王都へと向かってアクセルを踏み込んだ。
門から王宮までは比較的近く、十分ぐらいだっただろうか。守衛さんの案内で王宮の裏手にある関係者用の通用門へと着いた俺たちは、守衛さんが事情を説明している間バスの中で待機している。
「でもすっごいですね、このバスという乗り物は。私が乗った事のある馬車の椅子もここまでフカフカしている物はありませんでした」
「ねえクラちゃん、クッションの付いた椅子のある馬車に乗った事があるの?」
「はい、馬車ってみんなそうじゃないんですか?」
少し思い出したのか、何気なくクラちゃんが発したその言葉にミスズが食いついた。
「ううん、王都で一般的に使われている馬車はほとんどが木の椅子。良い物でも布を敷いた程度で、クッションが付いている馬車と言えば、それこそ貴族や王宮関係者が使っている物しか……」
「なるほどね。しかもクッションのついた馬車しか知らないって事は、かなり良い環境で育った可能性が……って事か」
「はい、なのでクラちゃん孫娘説というのがより一層現実味を帯びて来た感じです」
俺たちの会話を今一つピンと来ていない表情で聞いていたクラちゃんだったが、次第に状況を悟ったのか、緊張からなのか真剣な表情へと変わって行った。
「お待たせしました、中に入って良いそうなのでこのまま奥まで進んでください」
守衛さんの指示でそのまま敷地内を進むと開けた場所に行き当たり、そこで俺たちは全員でバスを降り、迎えに出て来た関係者の人に連れられ、応接室のような場所へと案内された。
「さすが王宮は装飾が豪華だね」
領主様の屋敷には何度か行った事のある俺だが、やはり王宮の応接室というだけあって豪華な装飾が部屋の至る所に見られ、少し緊張してしまう。
「シュウさん、ミスズさんお久しぶりですね」
暫く待っていると応接室に一人の身なりが整った男性が入って来て俺たちに話しかけて来た。この人誰だっけ……とポカンとしている俺を差し置いてミスズが挨拶を返す。
「ご無沙汰しております、アルン殿下」
「バスツアーではお世話になったね。今でも鮮明に思い出す素晴らしい旅だったよ」
俺は完全に忘れていたけど、挨拶をしてきたこのアルン殿下という人はこの間実施したバス体験ツアーに参加した王宮貴族の一人だった。
もうっ! と怒るミスズに対して、笑いながら気にしないでと言ってくれた殿下は早速本題へと入った。
「この度はクラを保護してくれてありがとう」
「じゃあやっぱりこの子は王様の……」
「その通り、実はいままでにも時々王宮を抜け出そうとした事があってね。だいたいは衛兵や守衛に見つかって未遂に終わるんだけど、何度か王都に出てしまう事があったんで気を付けるようにはしていたんだ」
「「そうだったんですか……」」
俺たちが話を聞く横でクラちゃんはずっとうつむいている。