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王都への旅路(3)

【今回の登場人物】

シュウ…バスと一緒に転移した主人公

ミスズ…王都にある商家の娘

ネネ…黒猫亭のオーナー

「すぐにお父様を呼んで来ますので、こちらで少しだけ待っていて下さいっ」


 俺は通された部屋で椅子に腰をかけ、待ち時間を使って今の状況を整理する事にした。


 まずはあのバスだ。異世界に来てしまった理由はまだ分からないけど、運転手も消えてしまった事だしバスは貰っ……いや、しばらく借りても良いだろう。


 バスと接触した魔物が次々と倒れた事を考えると、このバスは単に堅牢という訳ではなく、触れた魔物を即座に無力化できる何らかの力が備わっている可能性もある。


 もう少しバスを走らせてみて色々と検証してみよう。そしてそろそろ給油もしておかなきゃ……


「ん!?」


 突然俺が発したその言葉で近くにいたメイドの一人がビクッとした。


 この世界ではどうやって給油をすれば良いんだろう……いや、それ以前にさっきバスを降りる時に燃料計をちらっと見たけど、まだ九割以上残っていた筈。


 仮に俺が寝ている間に日本で給油をしていたとしても、この世界に来てから少なくとも四時間近く運転している。いくら燃費が良くても九割以上ガソリンが残っているのはさすがに不自然過ぎじゃないか。


 ただ若干ではあるが減ってはいるので、いくら走っても全く燃料が減らないなどと言った事でも無いようだし……俺が頭を抱えているとミスズが部屋へと戻って来た。


「あの、すみません父は今出掛けてしまっていて、しばらく戻らないそうなんです……」


 そしてあまりに急な来客だった為、お昼の準備にも時間がかかってしまうという。そしてミスズからこんな提案があった


「私の行きつけのお店へ一緒に行きませんか?」



≪ガラガラガラ ゴローン≫


 連れて来られた店のドアを開けた途端、幾つも取り付けられたドアベルがもの凄い音を奏でる。いや、騒音が撒き散らされる。


「あぁ……調理中でも気づくようにって、あとは防犯目的らしいですよっ」


 ミスズ行きつけという『黒猫亭』は屋敷から歩いて数分の所にあり、昔からの知り合いである女性オーナーが一人で経営しているお店だという。


「いらっしゃーい」


 ドアベルの音を聞いて奥からバタバタと慌ただしく出てきたこの店の店主らしき女性を見た途端、俺は思わず声を上げてしまった。


「お……オーナー!!」


 声や仕草にやや違いがあるものの、その女性は俺が異世界に飛ばされる前に働いていた日本のカレー屋のオーナーとそっくり、いや全く見分けがつかない程に似ていた。


「えっ、知り合いなの?」


 驚いた様子で尋ねるミスズだったが、俺のバイト先のオーナーがこんな所にいる訳がないし、相手も俺とは初めて会ったような反応だったので別人で間違いないんだろう。


「あ、いや……ちょっと知り合いに似ていたからびっくりして」


 実は俺は異世界人で、あなたは元の世界のバイト先のオーナーとそっくりだ。そんな事を言ったら頭がおかしいと思われかねない。


「私はこの店のオーナーでネネって言います。宜しくね」


「と、遠い国から旅をして来ましたシュウと申します……こちらこそ宜しくお願いします」


 俺の自己紹介を聞いた後でネネさんは席へと案内をしてくれ、メニューを持ってきた。お代の心配はしないで沢山食べてと勧めてくれるミスズだったが、メニューを見ても聞いた事が無い料理ばかりで全く味の想像がつかない。


「この国に来てからまだ日が浅くて、メニューを見てもどんな料理か良く分からないんだ」


「そうなんですか‥‥…大丈夫です、私に任せて下さいっ!」


 そう言うと、目をキラキラさせながら彼女はおすすめの料理という物を次々に注文をし始めた。


「リズケーキとベルムースタルトと、あとマレーケーキと……」


 それを近くで聞いている俺は不安でいっぱいだった。いくらこの世界に関する知識が無いとは言え、これが昼食のメニューとしておかしい事だけは何となくわかる。


「えっと……お昼ご飯だよね」


「あっ、野菜も必要でしたね。じゃあベジタブルケーキと……」


 デザートっぽく聞こえるだけで実は普通の料理なんじゃないか。もしかするとこの世界では甘い物が主食なんじゃないだろうか。


 いろいろな可能性を俺は考えたが、この後予想通りに様々なフルーツを使った色鮮やかなケーキや、いかにも女子受けの良さそうな野菜を使ったスイーツが大量に運ばれて来る事になり、少し後悔する事になった。

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