キングボア大量発生の理由(2)
【今回の登場人物】
シュウ…バスと一緒に転移した主人公
ムツキ…ハラジク領から来ていた雑貨屋の娘
ネネ…シュウが住む黒猫亭のオーナー
「戻りましたー」
「おかえりなさい、ネネさんなら食事に行きましたよ」
俺が雑貨屋へ戻ると店番をしていたムツキが出迎えてくれた。ムツキのお店を物色し終えたネネさんは、お昼ご飯を兼ねて他の店も回ると言い少し前に出掛けたらしい。
「シュウさんはお昼ごはん食べて来たんですか?」
「うん、領主様に色々御馳走になったから」
「えーっ!! ちょっとそういう時は私も誘ってくださいよ」
そんな事を言われたって領主様の所へ連れて行く理由なんて無いし……。一瞬そう思ったが、ハンターから俺のスーツケースを買い取った時にムツキも何か話を聞いているかも知れない。
「そういえば俺のスーツケースを買い取った時、ハンターから何か話を聞かなかった? 見つけた時の状況とか、オームボアの死骸の事とか……」
「私は領主様の所のご飯について話していたんですっ!!」
話題を逸らされたと思ったのか、やや不機嫌になったムツキだったが、少し考える仕草をした後に当時の事を色々と話し始めた。
「そういえば大量のオームボアが倒れているのを見たって言ってました。あとその日はいつもより多くオームボアと遭遇したので全部仕留めて結構儲かったとか」
「オームボアの死骸を見つけたなら回収すれば良かったんじゃないのかな……そしたら倒す手間も無くて良い儲けになるのに……」
「私もそれ気になって聞いたんです! でも遠くから見ただけで本当に死んでるかどうかが分からなかったから、あんな大群へ不用意に近づくのは危険と判断したらしいですよ」
「なるほどね……」
「あと、スーツケースはその場所より少しハラジク寄りの道端に落ちてて、引きずったような跡もあったから魔物が持って来た物じゃないかって警戒していたらしいです」
スーツケースを引きずった跡というのは新しい情報だ。確かに重さ的にはオームボアにでも引きずれそうだけど、そもそも何故スーツケースがバスから落ちてしまったんだろうか……。
「ありがとう参考になったよ。じゃあ情報料として領主様から貰ったお土産のお菓子をムツキに進ぜよう」
「やったー! さすがシュウさん、そういうとこ大好きですよ」
これまで隣同士の部屋に住んでいた事もあって毎日顔を合わせていたが、はにかみながらそんな事を言うムツキの姿は何故かとても新鮮に感じた。
「ただいまー」
そこへ大きな荷物をいくつも抱えてネネさんが帰って来た。
「おかえりなさい。買い付けが終わったなら帰路で何があるか分かりませんし、もうそろそろ帰りましょうか」
「そうね、それじゃあまた来るから宜しくねムツキちゃん」
「はい、短い間でしたが一緒に暮らせて楽しかったです!私もまた遊びに行きますね」
今までは馬車で買い付けに来ていたので、復路の食料や野営道具などもあり、そこまで大量の品を買い付ける事は出来ず、当然日持ちしない食料品などを運ぶ事は困難だった。
しかし今回は大型バスなので、相応の量を積む事が出来、四時間程度で着くので食料品を運ぶ事もできる。いつもより気合を入れて仕入れたという大量の雑貨や食品をバスに積み込み、俺たちは帰路へと着いた。
「じゃあね、ムツキ」
「ムツキちゃんまたねー」
「うん、二人ともバイバーイ! 気を付けて王都まで帰ってね」
俺たちはムツキに大きく手を振り、ゆっくりとバスを発車させた。