キングボア大量発生の理由(1)
【今回の登場人物】
シュウ…バスと一緒に転移した主人公
ロンガン…フルーテ領の領主
ランゼル…ハラジク領の領主
頭を使ってお腹が空いてしまった俺は、まだ仕入れをしているネネさんに一言断ってからハラジクの街を散策しつつ食事でもする事にした。
とは言っても以前来た時にメイン通りのお店は一通り見てしまったし、またブラブラしていて面倒な人に捕まってしまうのも嫌だ。そこで、一応は面識もある訳だし俺は領主様の所へ挨拶をしに行く事にした。
「こんにちは、領主のランゼルさんにお会いしたいんですが」
屋敷に着いた俺は門の前の衛兵に声をかけてみたが、当然アポも無い状態でいきなり来ても会える訳がなかった。
しかし俺が『バス』という単語を出した途端に態度が急変し、慌ただしく中へ消えた衛兵は何人かの使用人を連れて戻って来た。屋敷の中へと通してくれた。
「やあシュウ君、久しぶりだね」
「お久しぶりですランゼルさん、急に訪ねて来てすみませんでした」
「いやいや、いつでも来てくれて構わないよ」
特に今日は用事がある訳では無く、この街へ来たので挨拶がてら寄らせてもらったという事を伝え、暫く雑談をしているとランゼルさんから気になる情報を聞く事ができた。
「そういえば、うちの街のハンターが森の中で小さい車輪のついた見慣れない四角い箱を見つけたと話していてね。雑貨屋に売り払ったと言っているんだ」
「きっとそれは俺のスーツケースの事だと思います、森で無くした物が雑貨屋で売られているのを見つけてこの間買い戻しました」
「そうか、君のだったのか。異国の物だとしたらハンターが知らないのも納得できる。そしてここからが本題なんだが、そのハンターが森で大量のオームボアの死骸を見たって言うんだ」
「それいつですか!? たぶんバスで倒した物だと思うんですが、死骸がすっかり消えてしまっていて……」
「そうなんだよ。正確な時期は分からないんだけどね、私達もその報告を受けて兵を調査に行かせたんだ。でもどこにもオームボアの死骸なんて見当たらなくて。だからと言ってハンターが嘘をついているようにも見えないから、シュウ君なら何か知っているかなと」
「そうだったんですか……ごめんなさい、ちょっと分かりません。しかしオームボアの件はフルーテ領の領主様にも報告しておりまして、同じく調査をされたようですが成果が上がらなかったとの事でした」
「ほう、フルーテ領と言うとロンガンかね」
「はい、フルーテ領の近くで合計三匹のキングボアが出現する事件がありまして、無事駆除はできたんですがまだその発生原因も分かっていない状態です」
「なんと、それは有り難い情報だ。こちらでも気を付けておくよ」
強い魔物が出現したという情報は例え駆除済みであっても大変重要な物だったらしく、とても感謝された俺は領主様の屋敷で豪華な昼食をご馳走になり、手土産まで貰って屋敷を後にした。
ちょっと挨拶をするだけの予定だったが、俺としても有益な情報を聞く事が出来たのは大きかった。
「でもなんで大量のオームボアは消えてしまったんだろ。他の魔物や動物が食べた……にしてはさすがに量が多すぎるし、それなりの痕跡が残ってる筈……」
まだまだ謎が残ってはいるが、少しづつ全貌が見えて来たような気がした俺は上機嫌でムツキの雑貨屋へと戻って来た。