異世界に来てしまった原因(4)
【今回の登場人物】
シュウ…バスと一緒に転移した主人公
ムツキ…ハラジク領から来ていた雑貨屋の娘
ネネ…シュウが住む黒猫亭のオーナー
日本のバイト先のオーナー…ネネにそっくりな人
「シュウ君大丈夫……一体何があったの?」
この状況を心配したネネさんとムツキが俺の元へと歩み寄り、バスの中へと入ったその瞬間、さっきまでの光景が嘘のようにバスは綺麗な状態へと戻り、エンジンも問題無くかかるようになった。
二人を残して急いでバスを降りてみるが、窓はどこも割れておらず凹みや傷も無いし、もちろんタイヤもパンクしていない。
何が何だか分からない俺だったが、ネネさんが再びバスから降りた途端にボロボロの状態に変わるバスを見て一つの可能性を考えた。
「ネネさん、もしかしてさっきの猫のスパイスケース持ってますか?」
「ええ、持ってるわよ」
「ちょっとそれ貸して貰えませんか」
ネネさんから猫のスパイスケースを借りた俺はそれを持ったままバスに乗り込む。
その瞬間に俺が思った通りバスはピカピカの状態に変わった。
「バスが凄い能力を持ってたんじゃなくて……この猫のおかげだったんだ」
このバスに不思議な力が宿っていた事で俺は異世界に来てしまい、バスの力で魔物を簡単に仕留めていたと俺は思い込んでいたが、どうやらそれは違ったようだ。
バス自体はごく普通の大型バスで、そこにこの不思議な力を持った猫のスパイスケースを俺が持ち込んだ事によって、不思議な力が宿ったか何かでこうなってしまったと考えた方が自然だろう。
もっとも、異世界に来ている時点で自然も何もあったもんじゃないんだけど、それなら今の現象にも納得がいく。
「ネネさん……」
「大丈夫、今の見てたから。そのスパイスケースが何か関係してるんでしょ」
「たぶん、俺もまだハッキリとは分かっていないんですが、これが無いとバスは動かせないようなんです……。あの、この猫のスパイスケース譲って頂けませんか。ちゃんとお金は払いますので……」
「いいわよ、そうしないと私も帰れないし。そもそも私の所から無くなった物と同じかどうか分からないからお金なんて要らないよ」
「ありがとうございます」
安堵と一緒に俺の中にふと疑問が生じた。もしかしてこのスパイスケース持っていれば俺はバスみたいに無敵になれるんじゃ……? しかし試して痛い目に遭うのも嫌なので、ひとまず猫様のスパイスケースはバスの中へ大切に祀っておく事にした。
「じゃあ、私は開店準備をして来ますね」
「私も手伝うよ」
バスから荷物を下ろしたムツキは、ネネさんと一緒に裏口からお店へと入って行ってしまった。ネネさんの用事が終わるまで暇な俺はバスの中で色々と考えていて一つの仮説にたどり着いた。
この国では猫が神として崇められているという事も併せて考えると、あの猫のスパイスケースはこの世界の物で、元々不思議な力が宿っており、それをネネさんが何気なく購入して店へと持ち帰った。
しかし、ネネさんと瓜二つの存在が違う世界にもいた事で、猫ケースの力と合わさって、黒猫亭の中にこの世界と日本とを繋ぐ何らかの“道”ができてしまった。
店内が荒らされケースが無くなったというその日、猫のケースは“道”を通って日本へと来てしまい、その時の衝撃で黒猫亭の店内はぐちゃぐちゃになってしまった。
店に外部から侵入した形跡が無かったというのもそれなら説明が付くだろうし、それ以前に店で何度か物音がしたというのは、転送の前兆だったのかもしれない。
“道”を通って来たその猫のケースを何らかのルートで日本のオーナーが入手しお店へと持って来たが、それを俺がうっかり持ち出してしまった。
猫のケースは元の世界へ戻ろうとしたが、日本へ来た時に直接お店へ転送されなかった事を考えると、正確な転移場所までは分からないのかもしれない。
そうなると、もし元の世界へ戻れたとしても森の中へ投げ出され、誰にも見つけて貰えない可能性だってある。そこで自分を目的の場所まで運んでくれる誰か、もしくは何かが必要だったので俺とバスを一緒にこの世界へと転移させた。
運転手が一緒に転送されなかった理由はまだ分からないが、俺の仮説はザックリこんな感じだった。