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帰れなくなったムツキ(4)

【今回の登場人物】

シュウ…バスと一緒に転移した主人公


ムツキ…ハラジク領から来ていた雑貨屋の娘

ネネ…シュウが住む黒猫亭のオーナー

ミスズ…シュウといつも一緒にいる商家の娘

クラ…森で保護された記憶を失っている少女

翌朝、いつもより早めに目が覚めた俺が一階へ降りると、もう既にネネさんが料理の仕込みと開店準備をしていた。


「おはようシュウ君、今日は早いのね」


「おはようございますネネさん」


「まだムツキちゃんは降りて来て無いんだけど、昨日の子大丈夫かな」


「もう最低三日は何も食べていない筈ですし、さすがに意識が戻らないと心配ですよね」


「実はね、もうそろそろハラジクの街へ仕入れに行きたいなって思っていたんだけれど……」


「あーそういえば俺がここを借りてからもう一か月以上経ちますもんね」


「でもムツキちゃんとあの子があんな感じだと中々ね……」


 この黒猫亭の二階にある部屋を無償で借して貰う代わりに、だいたい月一回程度ネネさんが隣街へ買い付けへ行く時バスに乗せるという約束をしていた。


 その“隣街”というのがムツキの雑貨屋があるハラジクの街だった事が最近分かり、ムツキは仕入れに便乗して街まで帰るつもりだったらしく、ムツキが拾って来たあの子が意識を取り戻してくれなければ、出発する事ができない。


 そんな話をしていると、二階からドスドス・ゴトゴト騒がしい物音が聞こえ、その後ムツキが階段から転げ落ちて来た。


「いてて……」


「おはよう、今日も元気だね……」


 普通なら大丈夫? と心配する場面かも知れないが、ムツキは何度も慌てた事によって階段を滑り落ちており、悪い意味でもうお馴染みの光景になってしまっていた。


「私は元気ですよ! そして意識が戻ったんですよ彼女の!」


「「ええっ!」」


 俺とネネさんの驚き声が見事にハモった。

 慌てて二階の部屋へと駆け付けると、少女はベッドの上にちょこんと正座をしており、こちらに気付いた少女が話しかけて来た。


「あっ、おはようございます!」


「おはよう、俺はシュウって言うんだけど、起き上がっても大丈夫なの?」


「はい、ちょっと身体に力が入らないけど大丈夫です」


 身体に力が入らないのは恐らく三日以上何も食べていないからだろう。その様子を見たネネさんは軽く自己紹介をした後で何か食事を持ってくるからと下のキッチンへ行ってしまった。


「君は、どうしてあそこで倒れていたの?」


 俺のその質問に少女はうつむき黙り込んでしまった。もしかして触れてはいけない事を聞いてしまったのではないかと焦ったが、どうもそうではなかったようだ。


「……ごめんなさい、覚えてないんです」


「えっ、覚えてない?」


「はい、さっきムツキさんに森の中で倒れていた事を聞きましたが、何で自分が森の中にいたか分からず……」


「自分の名前は分かる?」


「はい、名前はクラです。でもそれ以外の事は……」


 長い時間意識を失っていたからなのか、彼女は記憶の一部を失っているようでこれ以上どうにもならない。倒れていた時に彼女が着ていた服は持って来て洗濯してあるが、それ以外に持ち物は無く、今の所何も手立てがない。



≪ガラガラガラーン≫


 その時下の階から大きなドアベルの音が響き、しばらくするとネネさんと一緒にミスズが食事を持って部屋へとやって来た。


「皆さんおはようございますっ、ネネさんから色々聞きました……あの大丈夫ですかっ」


 昨日のお昼過ぎ、いつもの場所にバスが無かった事を不思議に思ったミスズは心配して朝一番に黒猫亭を訪れたらしい。


 あんまり大勢が部屋にいるのも良くないと判断して、食事を置いた後俺たちは一度部屋を出て下の階で話し合う事にした。

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