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王都への旅路(2)

【今回の登場人物】

シュウ…バスと一緒に転移した主人公

ミスズ…王都にある商家の娘

「そこの大きな乗り物、止まりなさい!」


 門に近づくと守衛と思われる人達がやはり武器を手にして集まって来た。そりゃあ見た事の無い大型の乗り物が異常な速度で接近してくるんだからこの対応になるのは仕方ない。


 ひとまず言われた通りにバスを停車させたけど、今の俺はこの国の事を何も知らないばかりか身分を証明する物も持っていない。いや、あるにはあるけど恐らく異世界で日本の免許証は無意味だろ。


「大丈夫です、私が説明と手続きをして来ますので待っていてください」


 魔物の大群に襲われ通行証を紛失した事、遠くの国からの旅人に助けられた事などを守衛さん達に説明し、何やら手続きをしている。どうやらミスズの商会というのは王都でも名の知れた所のようで、少し待たされた後無事に入る事を許された。


 しかし、この時俺はまだあまりよく分かっていなかった。見た事も無い巨大な乗り物が王都に入り、その乗り物が百匹超の魔物を無傷で倒せる程の能力を持っている事が王都の守衛、つまり王宮関係者に伝わるという事が何を意味するのか。


 大きな音をたてて門が開かれ、同伴していた三名の護衛は契約が終了したのか「貴重な体験ができた」と言いここでバスを降りて行ってしまった。


「では、出発しましょうっ!」


 相変わらず運転席の横の補助席に座っているミスズに促され俺はゆっくりとアクセルを踏み込みバスを発進させた。


 門の中の景色は今までとは全く違い、道は綺麗に整備されてレンガ造りの家がいくつも立ち並び、多くの人が行きかう――そんな東洋を彷彿させる美しい光景が広がっている。


「すごい、まるでゲームの世界のようだ」


「王都の門をくぐってしまえばもう魔物に襲われる心配もありません。ほらあの赤いお店は最近オープンしたばかりのカフェでとてもお茶が美味しいと評判なんです!」


 ゲームと言う物を知らないミスズに俺の言葉の意味は良く分からなかったようだが、得意げに王都の紹介をする彼女はとても可愛らしい。


 そんな事を考えている俺を不思議そうに見つめ「ちゃんと聞いているんですか」と彼女は少し拗ねているようだった。



 王都の門をくぐってからもう二〇分は走っただろうか……。


 路面はレンガで綺麗に整備されているけど道幅は狭く、人通りも多いのであまりスピードを出す事ができない。そもそもこんな所で人身事故なんて起こしたら堪ったものじゃない。


 猫が横切るのを待って右へ大きく曲がると、見えて来たひときわ大きな建物を指さしてミスズが言う


「あれが私の父が経営するラマノ商会です」


 ラマノ商会と大きく書かれたその建物には多くの人々が出入りしており、商会と言うよりはショッピングモールか何かのようだった。


「あの、できれば目立たない場所に停めさせて欲しいんだけど……」


「そうですね、目立ちすぎるのも良くありませんし奥の方へ行きましょうか」


 屋敷の裏手からは細い道が延びており、その先にはバスを停めるのに十分な広さのある木に囲まれた広場があった。


「よしっ、到着。お疲れ様でした」


 彼女は再び深々と礼をし、お礼の言葉と共に屋敷へ一緒に来て欲しいと俺を促した。こんな状況に慣れていない俺は、人の家を訪ねる時には手土産でも……と思考をフル回転させ、バスに乗る前に買ったお土産の一つを持って行く事にした。


「ちょっとだけ待って貰えないかな、下の荷物入れから出したい物があるんだ」


「もちろんですっ」


 バスから降りた俺はトランクルームの扉を引き上げ、預けたスーツケースを取り出……そうとしたが、そこに俺のスーツケースは無かった。


「なっ、俺のスーツケースが無い……」


 それどころか、乗る時にトランクルームの中に積まれていたバス会社の備品のような物も今は見当たらない。


「魔物に襲われた時に落ちてしまったんでしょうか……」


 ミスズが心配そうに覗き込みながら言う。


 高速バスへ乗る時に荷物を預けた事は間違いない。じゃあミスズの言う通り魔物に襲われた時に落としてしまったのだろうか。いや、このトランクルームは今初めて開けたので荷物が落ちる訳が無い。


「……大丈夫、どうせ大した物は入ってなかったから」


 お土産のお菓子と着替えの洋服が何着か、本当に大した物は入っていないので無くなった事はどうでも良い。問題は無くなった経緯だ。


 異世界に来てから運転手が盗んで逃げた? いや、あんな物を盗むメリットは無いし備品が無くなっている事の説明が付かない。じゃあ異世界転移の時に消えてしまった? しかし俺の肩掛けバッグは残っている。


 考えていても仕方が無いので、ひとまず俺はミスズと一緒に屋敷へと向かう事にした。


 しかしこの時はまだ誰も気づいていなかった。俺が異世界に転移した時に座っていた座席に落ちている『ある物』の存在を。

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