畑を荒らす魔物の正体(2)~調査計画~
もうそろそろフルーテ領へ着くかと言う場所までやってきた時、前方に五台の馬車が走っているのが見えた。
「やけに台数が多いけど商人の馬車かな」
「あの家紋は……ロンガンさんの所の馬車ではないでしょうか?」
速度を落としてゆっくり近づくと馬車も止まり、中からはロンガンさんと娘のレンナさんが降りて来た。
「こんにちはシュウさん、ミスズさん」
「「こんにちは」」
「二人とも済まないね、少し帰路の予定が遅れてしまって」
ロンガンさんの説明によると、今日は朝からあまり天気が思わしくなく、雨が降ると大変なので無理に進むのを諦め野営地で様子を見ていたらしい。
「では、お二人だけでも乗って行かれますか?」
「それは助かる、ぜひお願いするよ」
ここから屋敷までは馬車でも今日中には着く距離らしいが、俺達だけが先に着いてしまってもやる事が無い。良い機会だしまだバスに乗った事が無いロンガンさんに体験して貰おうと考えた。
「それでは、しゅっぱーつっ!」
ミスズの掛け声で再びゆっくりとバスを発車させる。ここから屋敷までは十五分もあれば到着できそうだ。
「おおおおぉ」
「動いているのに全然揺れませんね」
「この椅子も素晴らしい座り心地だな」
ロンガンさんだけでなく、前回乗った時は高熱で乗り心地どころでは無かったレンナさんも改めてバスの快適さに驚いている様子だった。
以前、俺も馬車に乗せて貰った事があるが、車軸と座席が直結しているこの世界の馬車はそれなりに揺れる。
バスが全然揺れないという表現はさすがにオーバーだが、とてもじゃないけれど馬車とは比べ物にならない。二人がバスの乗り心地に感動していると、一息つく間もなくバスは屋敷へと到着した。
「ありがとう、本当にあっという間だったよ」
応接室に通された俺たちの元へロンガンさんの指示で様々な料理が運ばれて来る。
「わぁ凄いですねっ」
目の前に並べられたデザートや料理の数々に感動し、モサモサと食べるミスズを横目にロンガンさんが改めて起こった事を話してくれた。
「あれはシュウ君たちが帰った次の日の朝だったかな、南側にある畑が荒らされていてね」
「南側の畑ですか……」
「足跡から恐らく四足歩行の魔物だと推測したのだが、この辺りに出る魔物の仕業にしては少し規模が大きくてね。この間キングボアの死骸が発見された事やシュウ君の言っていた百匹超のオームボアの件などもあって不用意に動けないのだ」
「そういえば大量のオームボアの死骸は見つかったんですか?」
「いいや、あれから調査隊を出して調べさせたが一匹も発見できなかったし、領内のハンターにも聞いてみたがそれらしい物を見た者はいなかったよ」
「なるほど。それで、調査はなぜ今日なんでしょうか?」
「同じ南側にある果実畑の果実が熟れて、ちょうど食べ頃になるのが今日以降なんだよ。だから恐らくまた狙って来るんじゃないかと思ってね」
「「なるほど」」
王都を訪れた時点でそのままバスに乗って一緒に戻るという提案を断られていたので少し俺は不思議に思っていたが、そういう事だったのか。
予定通りミスズには屋敷で待っていてもらい、ロンガンさんと五名のハンター、畑の持ち主がバスへ乗り込み同行する事になった。