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バス体験ツアー(2)~出発~

「大きな荷物のある方はこちらでお預かりしますっ」


 この日はバスツアー当日、朝早くにも関わらずラマノ商会の裏手にはツアーに参加する沢山の貴族や権力者たちとその見送りの人で賑わっていた。


「おはようございます、どうぞ足元にお気を付けください」

「君がシュウ君と言ったかね、今日はよろしく頼むよ」


 昨日のうちに非常用の道具も積み込み、燃料も満タンにしておいたので準備は万全。

 俺はマルセルさんと共にバスの入り口で乗客を出迎え、一人一人に挨拶をして握手を交わした。


「これで全員乗車が終わったようだね」


 マルセルさんが予約者名簿を見ながらそうつぶやき、最後に俺は運転席へ、ミスズは運転席横の補助座席へ、マルセルさんは客席へと乗り込んだ。


「皆様、本日はバスの体験ツアーにご参加有難うございます……」


 マイクの電源を入れ、俺は車内放送で簡単な挨拶をした。

 乗客たちにとってはこの放送も新鮮だったようで、どこから声が聞こえているのかと車内がざわついている。


 俺はマイクをバスガイド(・・・・・)へと渡し、ミスズの車内放送を聞きながらゆっくりとアクセルを踏み込んだ。ここから王都の門までは二〇分程、その間はまだ馬車程度の速度で走る事になる。


「おはようございます、わたくしはラマノ商会の娘、ミスズと申します。今日一日皆様のご案内を致しますので宜しくお願い致します」


 車内からは拍手が起こった。


「王都の門を抜け次第バスは速度を上げて、お昼前にはハラジクの街へ到着予定です。もし途中で魔物が出てもバスに乗っていれば安全ですので、どうぞご安心ください。それでは車内販売を始めます」


「えっ」


 俺は思わず声を出して驚いてしまった。


「えっ、駄目でしたか……?」


「いや、別に構わないけど……」


 さすがは商家の娘、商売のチャンスは逃さないのだと感心させられる。

 ミスズによって菓子類や飲み物が相場の数倍で販売され、ほとんどが完売した所でバスは王都の門を抜けた。


「ここからはバスが揺れますのでご注意くださいっ」


「「「おおおおおー」」」


 アクセルを大きく踏み込み、七〇km/hまで一気に加速すると同時に車内からは驚きの声が上がる。

 やはり馬車に慣れているこの世界の人々にこの速度は驚きだったらしい。


 ここからしばらくは広く馬車で踏み固められた凹凸の少ない道が続く。

 路面状態の良い道ではできるだけスピードを出し進んでおきたいので、俺はもう少しだけアクセルを踏み込んだ。


「今のは以前我々が野営をした場所だ! もうこんな所まで来てしまったのかっ」


「これなら魔物に襲われる間もなく通り過ぎてしまうではないか」


「このボタンを押すと椅子が倒れますわ!」


 王都を出発してそこそこ時間が経ったにも関わらず、車内から驚きの声が消える事はなかった。




「前方に魔物らしき物が二匹いますので、少しスピードを落とします。ご注意くださーい」


 俺が車内放送でそうアナウンスすると、車内が一気にざわつく。

 よく見ると小さな熊のような生き物で、相手もこちらを敵だと認識したのか近づいてきた。


「レッドベアの子供、Dランクの魔物ですっ!」


 ミスズの声は車内にも届いていたようで、バスの中は更に騒然となる。


≪トンッ トンッ≫


 バスを軽くノックするような音が二回聞こえ、燃料の残量が少し増えた。

 このまま出発しても良いが、今回はバス体験ツアーなので実際に倒された魔物も見て貰う事にしよう。そう思い俺はバスを停めた。


「ただいまレッドベアが出現しましたが、既に討伐済みで安全です。実際に見たい方がいらっしゃればどうぞ車外へ出てご覧になって下さい」


 その放送を聞いて何人かの者がバスから降り、倒れている魔物に触ったりバスを注意深く観察している。


「確かに魔物は死んでいるようだ」


「ああ、しかも外傷が全く無い」


「Dランクではあるが、ここまで一瞬で倒せるなんて聞いた事無いぞ」


 口々に感想を言い合っている所申し訳ないが、もうそろそろ出発したい。


「そろそろ出発したいと思いますのでバスへご乗車くださいっ」


 全員が乗り終えた事を確認した俺とミスズは再びバスを発車させた。

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