病人の搬送もお任せ下さい(3)
【今回の登場人物】
ロンガン…フルーテ領、領主
ディル…フルーテ領、領主の側近
「りょ、領主様大変です!」
それは夕方ごろの事、慌てた様子で警備兵の一人がフルーテ領の領主であるロンガンの元へとやって来た。
「いったい何事だ」
「そ、それが……三人のハンターがキングボアを買い取り窓口に持ち込んだとの情報が」
「なんだと!?」
このフルーテ領にも王宮の支部があり、そこの窓口ではハンターが狩った魔物を売る事ができる。そしてその窓口へAランクに分類される非常に危険度の高い魔物、キングボアが持ち込まれたというのだ。
キングボア程の魔物になると領主や王宮が軍を派遣して駆除にあたる必要があり、到底そこらのハンター数名が狩れるような魔物ではない。
「そのハンター達はどこに」
「はい、一階の部屋へ通しております」
駆除されている以上街に危険は無さそうだが、領主として詳細を把握しておく必要がある。ロンガンは早速キングボアを持ち込んだというハンターたちの待つ部屋へ赴き、詳しい話を聞く事にした。
「こんにちは私は領主のロンガン、君たちが持ち込んだというキングボアについて少し話を聞かせて欲しい」
「「「はい」」」
そこにいたのはまだ新米に見える三人のハンターだった。
「あれは、君たちが倒したのか?」
「いいえ、私たちが魔物を探していると道の端に倒れているオームボアのような魔物を見つけたんです」
一人がそう切り出した。
「私たちはまだ駆け出しなのでオームボアと言えば相当な獲物、自分達で倒した獲物じゃないという引け目はありましたが、少しでも資金の足しにする為に買取窓口まで運んできました。そうしたら、これはキングボアじゃないかって騒ぎになって……」
「なるほど……周りに他のハンターの遺体や戦った跡は?」
「無かったと思います。それどころか魔物の身体には傷一つ無かったので、眠っているのかと私たちも最初は警戒していました」
「病気、寿命……そんなところか」
「はい、でも道の中央に長い溝のような物が」
「長い溝?」
「馬車が急ブレーキをかけた時に付くような物ですが、それの何倍も太く長い物でした。そしてキングボアの下にも道端まで引きずられたような跡がありました」
買取窓口に持ち込まれた事で既に噂は街の中で急速に広まっており、早期に安全宣言を出す必要がある。しかし不可解な事が多いこの状況では更なる情報収集が必要だ。
キングボアにだって寿命はあるだろうし、病気にかかって死んだ可能性も否定できない。しかし万が一にもキングボアを上回る脅威を持つ魔物に倒され、道端まで引きずられたとなれば洒落にならない。
ハンター達との話が終わる頃には既に日も落ち暗くなっていたが、情報収集を急ぐ王宮の関係者や街の権力者達で屋敷はいつになく慌ただしかった。
「くそっ、こんな時にディルが居てくれれば……」
有能な側近としてロンガンからも厚く信頼されているディルは少し前から娘のレンナと一緒に旅へ出ており、あと二日は帰ってこない。
「レンナお嬢様がお帰りになられました!!」
「すぐに寝床と医者の手配を!!」
警備兵からの連絡を受け屋敷が更に慌ただしくなった。
「ディル、ご苦労だった。実はちょっと厄介な事になってな、手伝って欲しい事がある」
キングボアの一件を聞かされたディルには心当たりがあった。領主の話した状況と完全に合致する話をついさっき聞いたばかりだからである。
「恐らくこの件についての脅威は無いかと思います。実は……」