商品の納入はお任せ下さい(4)
【今回の登場人物】
ロンガン…フルーテ領の領主
レンナ…ロンガンの娘
リン、ロン、フィル……武術学校を卒業した新米ハンター
だいぶん時間も経ってしまったし、急いで領主様の屋敷へ向かわないと……この先は路面状態も良くフルーテへ近づくに連れて道路も広くなっていく。
どうせ向こうについてもすんなり宿へ……とは行かないだろうし、俺はいつもより多めにアクセルを踏み込んだ。
「「「わぁぁぁああぁぁ」」」
スピードに対しての耐性が無い新米ハンター三人は後ろの座席で悲鳴を上げている。バスは何匹かの魔物と接触しつつもスピードを緩める事無く山道を疾走していった。
どうせ接触した魔物の所へ戻ってもバスはもう荷物と人で満員、これ以上魔物を乗せる余裕はないから諦めよう。
飛ばした甲斐があって完全に日が落ちる前にバスはフルーテ領の領内へと入った。バスはそのまま領主様の屋敷へと向かって進み門の前で止まった。
「王都のラマノ商会からの荷物を運んで参りました」
俺がそう伝えると屋敷の守衛の一人が急いで中へ消えて行き、暫くすると屋敷から一人の少女が出て来た。
「どうもご無沙汰しておりますシュウさん、ミスズさん」
「「レンナさん!」」
レンナさんの指示でバスを屋敷の敷地内に停め、あとは使用人達が荷下ろしをしてくれるという事で俺達は屋敷の中へと招き入れられた。途中で拾った新米ハンターの三人も一緒に。
「「「この応接室って……」」」
どうやらこの新米ハンター達は以前にもこの屋敷に来たことがあるらしい。暫くすると領主のロンガンさんも応接室へとやって来た。
「シュウ君にマルセルのとこのお嬢ちゃん、良く来たね。そちらは……この間のキングボアを持ち込んだ新米ハンターさん達がどうして?」
「「えっ!」」
思わず驚きの声をあげてしまった俺とミスズ。一連の出来事を正しく繋げて理解しているロンガンさんが経緯を説明してくれた。
俺がこの世界に来て最初に轢いてしまい道端に放置したキングボアを彼女たちが見つけ、フルーテ領へと持ち帰ってひと騒動起きた。つまりはこういう事だ。
偶然とは恐ろしい。
ロンガンさんは今夜屋敷に泊って行くようにと勧めてくれたが、今回は単にマルセルさんの依頼で荷物を運んできただけという事もあり、俺達は街の宿屋を利用する事にした。
「そういう事だったらお任せあれ、助けて貰ったお礼にこの街でおすすめの宿屋を紹介しましょう!」
そう言うと三人の中で一番しっかり者に見えるリンはニコッと笑った。
特に目当ての宿がある訳でも無く、この街にも詳しく無いので俺達は宿屋を紹介してくれるというリンに付いて行く事にした。
「こっこでーす!」
連れて来られた場所は街の中でもひときわ綺麗な建物。今まで俺達が泊まって来た宿屋とはグレードが違うような気がした。いや、この間オーラド村で温泉付きの旅館に泊まったので正式開業していればあっちの方がグレードとしては上か……。
「ここって一泊いくらなの?」
あっ大丈夫です、ここ私の実家なので。
「「えっ!?」」
「助けて頂いたお礼なので宿泊代は結構です。あっ、ちなみに普通は銀貨六枚なので宣伝お願いしますね」
こんな立派な宿屋の娘ならハンターなんてやらなくても良いのに……よほどハンターに憧れがあるか変わり物なんじゃないのかな……。
俺は手渡された鍵を受け取りミスズと一緒に部屋へと向かった。明日の朝は一階にあるレストランで朝食も出してくれるらしい。
「……って、ええっ!?」
俺の手には部屋の鍵が握られているがミスズは何も持っていない。ミツカの宿じゃあるまいし二部屋用意して欲しかったな……
「どうしたんですかっ?」
「いや、今回も鍵一つしか貰ってなくて……ちょっとリンちゃんに言ってもう一部屋用意して貰って来るよ」
「まったく、私達は一体どう見られているんでしょうね。でも無料で用意して貰った部屋に文句を言うのは良くありませんよ。……しょうがないから今日も一緒に寝ましょう、シュウくんっ」
笑顔のミスズに手を引かれ俺達は部屋へと向かった。