商品の納入はお任せ下さい(2)
【今回の登場人物】
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「ネネさんが温泉水で煮込み料理作るんだってさー」
王都の門を抜けたバスは森の中を七〇km/h近い速度で飛ばしながら俺とミスズは車内でどうでもいい会話をしていた。
早朝まではミスズの顔がいつもより赤く熱っぽい感じがして態度もよそよそしかったけど、今はもういつものミスズに戻っている。バスの燃料も十分だしこのスピードで走っていれば夕方頃にはフルーテ領へ着けるかもしれない。
「そういえば車内で見た映画? とっても面白かったですっ」
「恋愛物の映画見てたんだよね、気に入って貰って何よりだよ」
「シュウくんの国ってなんだかここと全然違うんですね、とても高い建物も沢山あって……バスのような乗り物もいっぱい走っていましたし」
「俺も映画を見たら祖国の事を思い出すよ……」
「シュウくんは旅をしていたって言っていましたけど、いつまで王都にいるんですか? いつか帰っちゃうんですよね……」
「まだ分からないよ。時々帰りたいって思う事もあるけど、今はミスズやみんなと過ごすこの生活が楽しいし、それに……」
「それに?」
「帰れないんだ、帰りたくても俺の意思では」
「追われているとかそういう意味ですか?」
「いいや、どうやら猫神様の力でここに来てしまったらしくて俺は帰り方が分からないんだ」
何でこんな事をミスズに話しているのか分からなかったけど、この時だけはなんだかとても自然に話す事が出来た。そしてミスズも疑う事をせずすんなり受け入れてくれている。
「ミスズと初めて会ったあの日、俺は気付いたらバスと一緒にあの場所に居たんだよ。ここがどこなのかこの国の事なんて何にも分からず……だからあの日あそこでミスズと会えて良かったよ」
「じゃあ……あのレイク村で何かをやっていた魔術師たちが捕まれば、もしかしたら帰れる希望が見えるかもしれませんねっ」
「さっきも言ったけど、今はミスズ達と一緒に過ごすこの世界での暮らしが楽しいから帰る方法が見つかったとしても帰りたくない……ってのが正直な所かな」
「そう……なんですか」
少しほっとしたような様子のミスズはまた頬が少しピンク色に染まっている。ミスズ達と過ごす今のこの生活が楽しいのは本当だし、帰る方法が見つかっても多分俺は帰らないだろう。
それに、昔猫神様によって導かれたという日本人がこの地で天寿を全うしたという事を考えれば帰る方法は無いのかもしれない。
バスはレイク村の近くにある分岐点まで到着した。ここからフルーテ領の領主様宅まではあと三~四時間。ミスズも昨日はあんまり寝てない筈だし今日こそは早く着いて荷物を降ろし、ちゃんとした宿でゆっくりと休みたい。
俺が更にアクセルを踏み込もうとした所で、前方に荷車を引きながら歩く三人のハンターらしき人達がいるのを見つけた。
だいたいこういうケースは一度絡んでしまうと面倒になる事が多い。スピードを緩めて脇を通り過ぎようとしたが三人のハンター達は必死になって身振り手振りでバスを停めようとして来た。
前はバスを見るなり武器を構えて来るハンターが多かったのに最近はだんだんと知名度も上がって来たのかだいぶん対応が変わってきている。
俺は仕方が無いのでバスを停め、駆け寄って来る彼らの事情を聞いてあげる事にした。