商品の納入はお任せ下さい(1)
【今回の登場人物】
ネネ…シュウとムツキが部屋を借りている黒猫亭のオーナー
マルセル…ミスズの父親&ラマノ商会の代表
王宮の買取窓口を後にした俺達が再び "旅のしっぽ" へと戻るとそこではミスズの父親であるマルセルさんが待っていた。
「シュウ君久しぶりだね、温泉はどうだったかい?」
「お久しぶりですマルセルさん、温泉は素晴らしい出来でした。ところで今日はどうして……?」
「実はフルーテ領の領主様の所に商品を届けたいんだが、何しろ量が多くて……そこでバスで商品を運んで貰う事はできないだろうか?」
「もちろん、そんな事ならお安い御用です」
「旅から戻って来たばかりの所を申し訳ないが、できれば直ぐにでもお願いしたいんだ……」
こうして俺は王都に着くなりマルセルさんからの新たな依頼でフルーテ領へと向かう事になった。
「ではマルセルさんも乗って頂いて、今から屋敷まで行きますので荷物の積み込みをしましょう」
「助かるよシュウ君」
今回は特に訳ありな依頼という事では無く、単純にフルーテ領の領主様から物資の大量発注があっただけ。
荷馬車を使って届けても良いのだが、というより今まではそうしていたのだが、運べる量も少ない上に魔物に襲われるリスク、護衛を雇う経費、到着までの日数や人件費と様々な事を考慮すれば少々高くてもバスで運ぶ方が効率的と判断したらしい。
「ミスズは今回どうする?」
「もちろん私も一緒に行きますよっ」
商会の従業員達によってバスのトランクルーム、そして車内にも荷物がどんどんと積み込まれていく。俺はその時間を使って一度黒猫亭にある自分の部屋に戻り着替えや食料など旅の準備をする事にした。
≪ ガラガラガランッ ≫
黒猫亭の入り口にはまだ休業中の紙が掲げられているが、いつものドアベルを鳴らして中に入るとネネさんはキッチンで何かを作っていた。
「ただいまー……ってネネさん何やってるんですか?」
「ムツキちゃんに勧められてね、オーラド村で温泉を汲んできたのよ。煮込み料理とかに使ってみたら良いんじゃないかって思って」
という事は雑貨屋で降ろしたあのムツキの大量の荷物の中身って温泉水……やっぱり彼女は瓶に詰めて王都で売ろうと考えていたんだな。
手早く準備を済ませた俺がネネさんにフルーテ領まで出掛ける事を伝えると、意外な言葉が返って来た。
「じゃあ一つお遣いお願いできない?」
「お遣いですか?」
「フルーテ領でこの時期に採れるっていう "アケギ" って果実を買って来て欲しいのよ。あんまり日持ちしないから王都で出回る事はまず無いんだけど折角だしね」
そう言うとネネさんは俺に購入費と言って銀貨を数枚手渡した。
「分かりました」
俺は銀貨を握りしめいつものドアベルの音を聞きながらミスズの屋敷へと戻った。荷物の積み込みはもう既に終わっており出発できる。
「ではシュウ君、どうか宜しく頼むよ」
「はい、今夜までにはお届けしますのでお任せください」
フルーテ領へ行くには一度レイク村の方を回り込んでから北の方へ行かなくてはならず、何気に今まで行っている街の中では一番遠い。
馬車を使って行くと一週間はかかる距離で、バスで行ったとしても四~五時間はかかってしまう。
「ミスズはもう準備できた?」
「はいっ」
俺とミスズは再びバスへと乗り込み、長い旅路へ向けてアクセルを踏み込んだ。
「では改めてフルーテの街へ向けてしゅっぱーつ! シュウくん、また宜しくねっ」