魔物を求めて(4)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
ネネ…シュウとムツキが部屋を借りている黒猫亭のオーナー
クラ…国王様の孫娘
「やっぱり卵を返して欲しかったんですねっ」
「でもせっかくの魔物が……」
「仕方ないですよっ、相手は空を飛ぶんですし位置的に接触は難しかったんですから。他の魔物が来るのを待ちましょう」
逃げてしまった魔物の事をどうこう言っても仕方ないし、ひとまずバスが横転させられなかっただけ良しとしよう。あと村長にはバイオレントバードの温泉卵、諦めて貰うしかなさそうだ。
「そうですねっ……あっ、あれはオームボアじゃないですかっ?」
ミスズがバスの前方を指さしそう呟いた。さっきあれだけ派手に騒いだからか食事を放置していたからかは分からないが、気付いたらバスはオームボアの群れに囲まれている。
やった、これでやっと帰れる……。
俺がクラクションを鳴らすと同時にオームボアたちは次々とバスへ突撃を始めた。
しばらくして車体への衝撃が無くなった頃合いを見計らい、バスから降りた俺は周辺に転がるオームボアの死骸をバスのトランクルームへと積み込んでいく。
十二~三体はいるんじゃないだろうか……王都に帰ったら売ろう。
「それじゃ王都へ向けてしゅっぱーつ!」
オームボアの大群と接触したお陰で燃料は七割程度まで補充され燃料切れを恐れながら運転する必要はもう無い。アクセルを踏み込みバスは速度を上げて王都へ向かって走り出した。
「やー、なんか久々に王都へ帰って来たって感じだね」
確かに三日ぶりだけど、ムツキは妙に懐かしそうな表情で王都の景色に見入っていた。ミスズやネネさんは、仕事柄調印やら買い付けやらで馬車を使って旅をする事も多かったかもしれないけどムツキはそうじゃない。
ましてや野営の経験や魔物の襲撃を受けるなんて事は恐らく今回が初めてなんだろう。……まあバスの中で快適に寝てただけだけど。
"雑貨屋 旅のしっぽ" に着くなりムツキはオーラド村で積み込んだ大きな荷物を一生懸命降ろし始めた。そんなに買い込むほどあの村に魅力的なお土産はあったっけ……?
トランクルームの中にはもう一つ大きな荷物が残っており、これはネネさんの物らしい。
黒猫亭にも寄りその大きな荷物とネネさんを降ろした俺はそのままオームボアを売る為に王宮の横にある買取窓口へと向かってバスを走らせた。
「今回は色々あって大変だったね、ミスズも疲れてるでしょ……屋敷の前で降ろそうか?」
「大丈夫ですっ、私も一緒に行きます!」
さっき積み込んだオームボア達に止めをさすのを忘れていた。今までの経験上そこまで直ぐには復活しないので買い取りを依頼する時に仮死状態である事を伝えて早めに止めをさせて貰う事にしよう。
そしてこれが終わったら次は温泉ツアーの企画か……
オームボアたちは朝採れでしかも傷が無いという事もあり、とても高く買い取って貰う事が出来た。
しかしここは王宮。万が一にもクラちゃんに見つかってどこへ行っていたかを説明する事になったら今度は絶対に私も行くって言い出すに違いない……買取手続きを済ませた俺は早めに王宮を離れようとバスに向かった。
「あ!! ミスズさん、シュウさん!」
「「クラちゃん……何でここに」」
彼女はいつも何てタイミングよく現れるんだろう……。大量のオームボアを見たクラちゃんに今回の出来事を説明する羽目になり、案の定次回の温泉ツアーにはクラちゃんも同行する事になってしまった。
まだ実施日も決まってないし、別にいいか。