魔物を求めて(3)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
ネネ…シュウとムツキが部屋を借りている黒猫亭のオーナー
時間はもう深夜、わざと残飯も放置したままにしているのに魔物が現れる気配は一向にない。さすがにもうこの時間帯になると夜行性の魔物以外は活動しておらず、魔物との遭遇率は更に厳しい事になる。
「シュウくん、そろそろ見張り代わりましょうか?」
「あっ、ミスズか……ありがとう。でもちょっと顔赤いみたいだし体調悪かったら休んでて良いよ」
バスは暗かったがそれでもミスズの頬がほんのりピンク色に染まっているのが分かった。もしかしたら熱でもあるんじゃないのか!?
「ううん大丈夫だよ……それより何か音しない?」
「音?」
よーく耳を澄ましてみると確かに風を切るような音が聞こえて来る。
「魔物が近づいて来たのかな……だったら嬉しいんだけど」
俺はバスのエンジンをかけ、ヘッドライト点灯させてついでにハザードランプも点滅させて必死にアピールした。まさに遭難者状態、接近してきたのが魔物となれば逃す手はない。
その甲斐があってかバサバサと羽音をたてて大型の鳥のような魔物がバスの近くへと降り立った。
「あっ、あれはバイオレントバードですっ」
「へー、あんなでっかい魔物なんだ」
魔物はバスの方をじっと見ているだけで攻撃してくる様子は無い。
「どうしたんだろう、襲ってこないのかな」
「何だかトランクルームの方を見ているような気がしますけど……卵を取り返しに来たんでしょうか」
「まっさか」
その後しばらくバイオレントバードと俺達の睨み合いが続いた。どちらも攻撃を仕掛けようとはせず……というよりこちらからは攻撃を仕掛ける事が出来ない。
≪ キィィィイィィー! ≫
その時魔物がバスに向かって大きな鳴き声をあげた。その声に驚いてネネさんやムツキも目を覚ましたが、やはり攻撃を仕掛けて来る様子は無い。
「あの魔物攻撃してこないの?」
「そうなんですよっ さっきからこっちをずっと見ているだけで……」
「何かトランクルーム見てる気がするんだけど、卵返せって事じゃないの?」
「やっぱりネネさんもそう思いますかっ!?」
さっきからの睨み合いで何となく俺もそんな印象は受けていた。自分の卵が巻き添えになる事を警戒して下手にこちらを攻撃できないでいるような、そんな印象すら受ける。でもこの魔物ってそんなに賢いんだろうか。
その時しびれを切らしたのか魔物がバサバサと音をたて羽を動かし始めた。まさか逃げるのかと俺は慌てたがそうじゃなかった。
「みんなつかまって!」
巨大な翼をはばたかせた事で強風がバスを直撃する。グラグラとバスは大きく揺れ、このままではバスが横転してしまいそうだ。
魔物の直接攻撃であればまだしも、このような間接攻撃に対する耐性はバスにない。しかもここで横転してしまうと人力だけで起こすのは一苦労だし、王都まで徒歩で戻らなくてはいけなくなってしまう。
おそらくバスを急発進させても位置関係からしてバスが接触する前に飛んで逃げられるか、風で横転させられてしまう。奴の狙いはみんなの言う通り恐らくこの間村長が取って来た卵みたいだし、ここは大人しく渡す事にしよう。
「卵を……渡してくるよ」
俺は強風が止んだ隙を見計らってバスのドアを開け、魔物をじっと見つめたままゆっくりと車外へ出た。クマと同じ理論が通用するかどうかは分からないけど、背中を向けたりするよりこの方が安全な気がしたからだ。
幸いな事に奴はその場で静観している。後ろ手にトランクルームを開けた俺は中から一つの箱を取り出し、ゆっくりと箱の蓋を開け地面に置いた。
魔物の視線は箱の中へと移り、俺は急いでバスに駆け込んでドアを閉めた。
「魔物が卵を見てますよっ」
小さな鳴き声をあげた魔物はゆっくりとバスへと近づき、卵を咥えるとそのままバサバサっとどこかへ飛んで行ってしまった。