魔物を求めて(1)
【今回の登場人物】
ネネ…シュウとムツキが部屋を借りている黒猫亭のオーナー
朝食後早々にオーラド村を出発した俺達四人は王都へ向けてバスを走らせていた。しかし今日は今までと状況が少し違い、燃料がもう既に二割を切って一割近くにまで達している。
王都までならギリギリたどり着けるかもしれないけど、王都に入ってしまうともう魔物と遭遇する事も無い。
オーラド村を出発する前に桃耳ウサギを一匹だけ購入してバスに当ててみたけど、燃料の増え幅は極々微量で何十匹、いや何百匹と購入しなければいけないだろう。燃料の増え幅が魔物の強さに比例しているようなので仕方ない。
それと問題がもう一つ。あれからミスズは目を合わせてくれない。でもいつもの運転席横にある補助席に座ってくれているので、嫌われたという訳では無いのかもしれない。
「ミスズ……なんかごめんね」
「い、いえっ! だ、大丈夫です」
「実はそろそろ燃料がヤバいんだ……みんなに事情を話して途中どっかで魔物が現れるまで待機したいんだけど」
「分かりましたっ」
いくらオーラド村のハンターが総出で魔物狩りをしたと言っても、魔物が完全に居なくなる事は考えられない。王都に近い場所まで移動して野営でもしていればさすがに魔物の数匹ぐらい出て来るだろう。
俺は一旦バスを停め、魔物と接触する事でバスの動力源となる燃料を得ている事や今それが底を尽きそうな事。一度燃料が無くなるとバス自体が使い物にならなくなる可能性がある事を説明し、魔物待ちをする事の許可を得た。
ここからもう少し行けば開けた場所に出る。そこには水場もあり魔物達が集まる場所としての条件はかなり良い方だ。
食料と飲料水はオーラド村で十分な量をバスに積み込んで来たし、もしかしたら長丁場になるかもしれないが、最悪の場合を想定して野営道具も揃えている。暫くバスを停め魔物が現れるのを待つ事にしよう。
「じゃあここで一旦バスを停めます。エンジンも切ってしまうのでもし魔物を見つけたらすぐに教えて下さい」
「「「はーい」」」
バスの時計は午前十時、今日中に魔物と接触して燃料補給をし王都まで帰り着けるだろうか……。三人には申し訳ないけど少しだけ付き合って貰おう。
……と入ったものの特にやる事が無い。テレビを見ようにもこの世界に電波なんて飛んでいないので映る訳も無く、俺は村で何か暇つぶし道具も揃えて来れば良かったと後悔していた。
「……ちょっとその辺りを散策して来るね」
ミスズが居ればエンジンのかけ方は分かっている筈だし、緊急時は問題無いだろう。近くに魔物が居ないかどうかちょっとだけ探してみるつもりで俺はバスから降りた。
辺りには俺の知らない草が大量に生えている。きっと薬草なんかもあるんだろうけど見分けがつかないな……。
「|甘香草≪かんこうそう≫があればいいのにね」
「うわっ、ネネさん!? もうびっくりさせないで下さいよ。それにバスから降りてきたら危ないですよ」
「大丈夫よ、私も買い付けで何回か馬車でこの辺りを通った事あるから。さすがにバスから出るなり襲われるなんて事は無いよ」
「まあ、それなら良いですけど。ところで甘香草って何ですか?」
「煮詰めたら強烈な甘い匂いを放つ草でね、お菓子やケーキに香料として使う事が多いんだけど魔物が好きな匂いだから安全な場所で使わないといけないの。でも今回は魔物を呼び寄せたいんでしょ」
「へーそんな草があるんですか」
そういえばミスズが調印の旅に出かけた時、焼き菓子を買い込んで帰る途中魔物に襲われて菓子を奪われたとか何とか言ってたっけ……だったら効果あるのかもね。
その後ネネさんと二人でしばらく近くを探してみたが、甘香草と思われる植物を見つける事は出来なかった。