卵を取りに(3)
【今回の登場人物】
村長…オーラド村の村長
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
ネネ…シュウとムツキが部屋を借りている黒猫亭のオーナー
卵も無事に取る事が出来たし、魔物が帰ってきたら面倒な事になるかもしれない。早めに村へ戻ろう。
振動で転がり落ちないよう二つの卵をバスの座席へしっかり固定し、念の為に村長には卵が孵化する気配が無いかを見張っててもらいつつ村へ向けてバスを発車させた。
帰路でもやはり魔物に遭遇する事は無く、バスの燃料はもうすぐ二割に届きそうな所まで減ってきている。さすがにそろそろ魔物が出て来て貰わないと……。
エンジンをかけていない状態だと、バスは魔物に対する耐性も無く生命力を燃料に変換する事も出来ない。それはつまり一度でも燃料切れを起こしてしまえば、バスが永久に使い物にならなくなってしまうという事を意味する。
「ミスズ、もうそろそろ何か魔物と接触しないとバスが持たなさそうなんだ……小さな魔物でも良いからもし見つけたら教えて貰えないかな」
「分かりましたっ」
最悪の場合は村でペット用として売られている桃耳ウサギを何匹か購入して……。俺の願いもむなしく村につくまでの道中では小さな物も含め魔物と遭遇する事は無かった。
まずは村長宅へと立ち寄り、二つ取って来た卵のうち一つを降ろしてもう一つの卵は万が一に備えてバスのトランクルームへと入れておく。
「ではシュウさんミスズさん、私はこれで。今夜温泉旅館は全館自由に使って頂いて構いませんので」
そう言うと村長は旅館の鍵を俺に手渡し、まだ従業員が居ないので宿で食事は出せないという事もあって四人分の弁当と普通の卵をいくつか手配してくれた。
宿の裏手に源泉が出ているらしいので、そこに卵を沈めてしばらく待つと温泉卵が作れる。
「じゃあ今日は私達四人だけで宿を貸切って事ですかねっ」
「まあ、従業員もいないし本当の意味での貸切だよね」
もう既に日も傾き始めており、村の人影もまばらになって来ている。卵を取りに行くの結構時間かかっちゃったな……。また明日の朝様子を見に行きますと言う村長に見送られ、俺達は温泉旅館へと向かってバスを走らせた。
「「ただいまー」」
「おかえり、卵は見つかったの?」
ロビーでくつろいでいたネネさんが話しかけて来た。
「見つかったんですけど……食べられるかどうか誰も分からないって事で一個持ち帰って王宮にいる魔術師の方に鑑定して貰う事になりました」
「えっ食べられるんじゃないの? バイオレントバードって毒持ってる魔物じゃないでしょ。じゃあ卵だって大丈夫なんじゃない?」
「じゃあネネさんが毒見してみますか」
「……私、医者からバイオレントバードの卵は駄目って止められててね、食べたいけど残念だよ本当に」
その時、俺達の声を聞いたのか二階の部屋からムツキも降りて来た。
「二人ともおかえりなさい」
この後、さっきネネさんとした会話と同じような事をムツキともする事になった。
よし、全員揃ったし、そろそろお腹も空いて来たから皆で温泉卵でも作りに行こう。俺達は村長から貰った卵を持って裏手にある源泉へと移動し、ぽちゃんと四つの卵を沈める。
「しばらく待ちます」
……
「案外地味ですねっ」
「ま、まあ……ゆで卵だし」
そう、村長に提案しといてなんだけど観光の目玉とするにはあまりにも地味なのだ。イイ感じに出来たとしても、殻をむいてしまえば普通のゆで卵と区別がつかず味も普通。
まあ、温泉で作ったっていう心理的なのが大事なんだよ。実際の所はどうか分からないけど、なんかこう良い成分が浸透していそうな、そんな気がするし。
俺達は熱々の温泉卵を持って宿へと戻り、ロビーで村長の用意してくれたお弁当をみんなで食べる事にした。