卵を取りに(2)
【今回の登場人物】
村長…オーラド村の村長
「もうそろそろ魔物の巣が見えて来る頃だと思うんですが……」
高い木々が生い茂る場所へとバスが入った所で村長がそう言い、辺りをきょろきょろ見回し始めた。
「そういえば大きい鳥の魔物ってどんなやつですか?」
「バイオレントバードというBランクの魔物です。両手で抱える位の大きな卵を生むらしいんですよね」
「「バイオレントバード!?」」
ミスズはその魔物の事を知っている様子で険しい表情をしている。俺だって名前を聞けば何となくヤバそうな奴だという事ぐらいは分かる。何たってバイオレントって暴力的なとか狂暴なって意味だよな確か……まあバスに乗っていれば大丈夫か。
「ああっ! ありましたシュウさん、あそこに巣が!」
俺は村長が指さす方へとバスを進め巣の手前で停車した。近くにバイオレントバードの姿は見当たらず、巣には卵が二つ鎮座している。
「あれ誰が取りに行くんですかっ」
「俺達は浴衣を着てるんで残念ながら走れないんですよ。なので……」
「し、しかし……」
「今後村の皆さんで卵を取りに行くのであれば村長が経験しておくのが一番いいと思います」
しばしの沈黙が流れた後、俺の迫力に負けたのか渋々と言った感じで村長が卵を取りに行く事になった。
「か、かならずドアは開けたままにしておいて下さいね」
「「大丈夫ですから」」
俺はできるだけ巣の近くへとバスを近づけ出入り口のドアを開けた。村長は辺りを警戒しながらゆっくりとバスから降りて行き、一歩一歩巣へと近づいて行く。
魔物が帰って来る様子は今のところ無く、村長は巣の中から卵を一つ抱えて取り出し、一目散に無事にバスまで走って戻って来た。
バスに戻った村長の額には脂汗が滲んでいるが、この卵に村の運命がかかっているからか目は真剣だった。
「せっ、せっかくですしもう一つ卵を取ってきます」
そう言うと再び村長は辺りを警戒しながらバスから降りて行った。まだ旅館もオープンしてないのにこんな大きな卵二つもどうするんだよとは思ったが、村長の頑張りを見てしまうとそんな事は言えない……。
孵化しない事を祈りながら俺は卵をツンツン突っついてみた。
「これがバイオレントバードの卵か……結構デカいんだな」
「そうですねっ。でもこの卵って食べられるんでしょうか?」
「えっ、食べられるんじゃないの!?」
「さあ、毒は無いと思いますけどっ……」
そこへ二つ目の卵を抱えて村長が息を切らしながらバスへと戻って来た。周囲に魔物の姿は無く、意外な程にあっさりと卵をゲットできてしまった事でやや拍子抜けしてしまった。それでも全員無事な事はもちろん喜ばしい事だ。
「村長、この卵って食べられるんですか?」
「えっ、卵ってみんな食べられるんじゃないんですか!?」
そんな事を言われても俺はこの世界の食糧事情なんて知らないし、ミスズも自信が無さそうな表情をしている。
親鳥であるバイオレントバードは毒を持っていないが、今までその卵を食べたという話を聞いた事は無いらしいく、村長はしばらく悩んだ後でこう言った。
「シュウさん……ひとつお願いがあります。この卵、一つは私の家で保管しておきますので、もう一つを王都へ持ち帰って王宮の魔術師に鑑定を依頼して頂けませんか?」
なんでも王宮の魔術師に鑑定を依頼すれば食べても大丈夫な物かどうか分かるらしい。まあ最悪途中で孵化したとしてもバスのトランクルームへ入れておけば安全だし……俺は依頼を受ける事にした。