少女の護衛はお任せ下さい(3)
【今回の登場人物】
シュウ…バスと一緒に転移した主人公
ミスズ…王都にある商家の娘
ミツカ…レイク村にある宿屋の娘
ヨツカ…ミツカの妹
「あれがレイク村です!」
王都を出発して二時間ちょっと経った頃、レイク村が見えて来た。
さすがに二時間以上もバスに乗っているのでミツカもバスの速度には慣れたが、こんなに早く着くとは思ってもおらず動揺が隠せていない。王都とは違ってレイク村の規模は小さく、村に入るとすぐにミツカの宿へと到着した。
「到着ですっ」
宿屋の裏手にある空き地にバスを止め、俺たちはミツカに連れられ今は休業中の札がかかる宿へと入った。
「早く妹さんへ薬を届けておいで」
「あっ、そっ、そうですね、ありがとうございます」
俺たちは宿屋の一階にある食堂で待つ事にした。車内で聞いた話によると、今は両親の残した宿を妹と二人で経営しているらしく、姉が宿泊担当で妹が食堂担当という分担になっており、妹が寝たきりになった今は休業しているそうだ。
しばらく待っていると、ミツカに連れられ二階からミツカによく似たパジャマ姿の少女がやって来た。
「初めまして、妹のヨツカです」
顔色も良く、今まで毒に侵されて病に伏していたとは思えないその少女はヨツカと名乗った。
「本当に、本当にありがとうございます!! おかげでヨツカは……」
「お役に立てて何よりですっ」
「ああ。レイク村まで来た甲斐があったな」
深々と頭を下げるミツカとヨツカ、満足げな表情のミスズ、解毒薬ってこんなに早く効くんだと内心驚く俺。まだ状況を完全に把握できていない妹のヨツカは不思議そうに姉のミツカへ尋ねた。
「王都まで行ったにしては随分と戻るのが早かったようですが……」
旅の途中で魔物の奇襲に遭い護衛を失った事、王都まで何とかたどり着き俺たちと出会った事、バスに乗せてもらい帰りは一瞬だった事などをミツカは一通り説明した。
「そんな……」
自分のせいで護衛の二人が命を落とし、姉まで危険な目に遭わせてしまった……恐らくそんな事を考えているのだろう。
「彼らも危険を承知で護衛依頼を請けているのですから、責任を感じる事なんてありませんよ」
「そうですよ、こうしてお姉さんも無事なんですしっ」
俺たちの言葉で少し元気を取り戻したヨツカは何度もお礼を繰り返し、せっかくなので自慢の料理を食べて行って下さいと言い残して調理場へと消えていった。
が、すぐに戻って来た。
「あの……本当にすみません、しばらく宿を休業していたので食材を仕入れていなくて……」
「あっ、でも拾ったお肉がありますよっ!」
ミスズのその言葉に「拾った?」と不思議そうな顔をするヨツカ。決して拾った訳では無いが、村に着いたら売ろうとトランクルームに積んできたハイウルフの肉は確かにある。
魔物の売買は禁止されているが自分達で消費する分には何の問題も無く、ミスズが言うのだからハイウルフも食べられるのだろう。
「ハイウルフって……あのB級食材のアレですか!? ハイウルフを拾った!?」
軽くパニックになるヨツカ。B級と言うとなんだか粗悪品のように聞こえてしまうが、高ランクの魔物と言うだけあって、なかなか流通する事は無いレアな食材だそうだ。
「最高のお料理を作りますのでお待ちください!」
仕入れていないと言っても最低限の食材はあるようで、ハイウルフを厨房に運ぶとすぐにヨツカは料理を始め、病み上がりの人が即席で作ったとは到底思えない程の料理がテーブルに次々と並んだ。
「「いただきます!」」
食事をしながら二人に村の事を聞いてみると、王都から離れている事もありこの村の食品価格は王都ほど安くないらしい。そして村の名前の通り大きな湖があり、暑い時期になるとそれを目当てにわざわざ遠くから旅をして来る者もいるそうだ。
とは言っても魔物の出る道をわざわざ旅してくるのは一部の貴族や生粋の旅人だけで、いわゆる家族で休暇を楽しむようなリゾート地という感覚ではないのだという。
「そういえばお二人は何故このレイク村へ?」
「「……へ?」」
彼女をバスへ乗せる時に俺たちもレイク村へ向かうと説明していた事を完全に忘れていた。そんな俺たちの反応を見たミツカは全てを悟った様子だったが、その事には触れず、ただただ深くお辞儀をしてお土産用にと菓子を用意してくれた。
「せっかくだし、湖を見てから帰ろうか」
「そうですね、私もまだ行った事がありませんので楽しみですっ」
まだ湖で遊ぶという程の気温では無いが、ミスズが言うにはもうすぐ暑い季節がやって来るらしい。ハイウルフの料理を堪能した俺たちは、宿にバスを停めたまま湖へと向かって歩いた。