温泉に行きたい人たち(3)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
ネネ…シュウとムツキが部屋を借りている黒猫亭のオーナー
「それでは全員揃いましたのでオーラド村へ向けてしゅっぱーつ!」
バスの時計は朝七時。
大して遠い距離でも無いのでもう少しゆっくりと出発したかったのに、朝早くからムツキとネネさんに起こされた俺は朝食のサンドイッチ片手にミスズの屋敷へとやって来た。
さりげなく聞いてみると、やっぱりミスズもオーラド村で一泊する二日間の日程で行くつもりだったらしく、準備万端で俺達を待っていた。
「そんなに急がなくても温泉は逃げないって……」
「そういう問題じゃないんですっ。とにかく、しゅっぱーつ!」
四人を乗せたバスは屋敷を出発し、まずは王都の南側にある門を目指して走り出した。王都の朝は遅く、この時間ではまだ街中を歩いている人はほとんど居ない。
そのせいもあってバスはすぐに王都の南門まで到着した。門を抜けると暫くは草原が広がり障害物が無い開けた道が続いている。
「じゃあ、ここからはスピード出すので注意して下さいねー」
「「「はーい」」」
さっきまではいつもの補助席に座っていたミスズも、今日は後ろの席へと移動して朝ご飯代わりにネネさんが作ってくれた軽食を食べながらみんなで騒いでいる。
なんだかもう遠足か修学旅行のような、そんな雰囲気すら感じる光景だった。
まあ、たまにはこういう知り合いだけの気楽なレジャーもいいね。
バスの燃料計を見るとガソリンの残量は四割を切っている。
そういえば隣国から帰って来てからは王都内を細々走る事が多くて魔物にも遭遇していなかったしな……。
オーラド村へ続くこの道は強い魔物が出ると有名で、今までは護衛依頼があってもハンター達は通りたがらなかった。
しかし、最近は村に活気が戻ったおかげか商人の馬車が通る回数も増え、 それに伴って ハンターたちにより魔物が駆除されたのかそのような噂を聞く機会も少なくなった。
まあでも、そのうち何かしらの魔物と遭遇するでしょ。
俺は燃料の残量についてそこまで気にしていなかった。
その後、にぎやかな三人を乗せたバスは魔物と遭遇する事も無く順調に走り続け、ちょうどお店が開き始める位の時間帯にオーラド村の村長宅へと到着した。
燃料の残りはあと三割にまで減っており、さすがにもうそろそろ魔物と接触して燃料補給をしたい。
それにしても何で今日はこんなに魔物と遭遇しないんだろ……。
「ついたよー」
俺のその声を聞いた三人の女子は上機嫌でバスから降りていった。
いや、ネネさんは少し年上感もあるし女子とは呼べないのかも……そんなことを考えていると鋭い視線と共にゾクゾクと背中に寒気が走った。
「へーここがオーラド村、結構小さな村なんだね」
話を聞くとネネさんがこの村に来るのは初めて。何か仕入れて黒猫亭で販売しようと思っていたらしいが、予想以上に何もなくてがっかりした様子だった。
「温泉水をお店で出したら良いじゃないですか。美肌とか効能を謳えばちょっとぐらい高くてもミスズみたいな人が注文すると思いますけど」
「それ私も考えていたのよ、 でもほらまずは実際に自分で体験してみないとね」
「ちょっと、私みたいな人ってどういう事ですか、失礼ですよっ!! ……まあ、あれば注文しますけど」
そう言えばミスズは水筒を持って来ていた。お茶でも入ってるのかと思っていたけど、まさかね……。
しかし今回はアポなしで突然の訪問、 村長いるかな……俺は村長宅のドアを叩いた。