事件の真相(3)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
クラ…国王様の孫娘
「そういえばシュウくん、魔術師たちの潜伏場所ってどこなんですか?」
「ああ、ラフロさんの家族が魔物に連れ去られたっていう場所だよ」
「えっ、何でですか?」
「魔物達はエサとして家族を襲った訳じゃ無さそうだし、そんなにしっかり調教された魔物が無意味に襲ったり、ましてや連れ去るとは思えないからね。何か都合の悪い物を見られてしまったから人間の指示があって襲ったと考えるのが自然なんじゃないかと思って」
「でも奥さんは何も見てないって言ってましたけど……」
「見られたと勘違いしたのか、見たけど気に留めていなかっただけっていう可能性もあるし。とにかく連れ去られた場所の周辺を重点的に探せば何かしらの痕跡は残ってるんじゃないかと思うよ」
この話を聞いた国王様は、すぐにハイウルフと戦えるだけの兵力をレイク村へと派遣して捜索に当たると言っていたし、そのうち何か見つかるだろ。
後は俺達が介入する事でも無いし、そもそも当初の依頼は家族の捜索。無事に家族も見つかった事だし後は国王様達に任せる事にしよう。
それよりも気になるのは、ずっと昔猫神様の力が宿ってこの世界に来たらしい"サクラギ・ミツル" という存在。もしかするとその時に猫神様が宿った物というのが俺が転移する切っ掛けにもなった、このスパイスケースなんじゃないだろうか……。
「でも伝説の開拓者と名前が一緒なんてシュウくん凄いですねっ! 実はシュウくんも違う世界から来たすっごい人だったりしてっ!」
ミスズが二ヤつきながらそう言って来たけど、あながち間違いでは無いので反応に困ってしまう。いや、"すっごい人"っていう所は違うか……。
「……う、うわぁ~……」
そんな話の最中、突然ムツキがあげた何とも言えな声に俺達も何事かと辺りを見回した。バスは王宮を出発し "雑貨屋旅のしっぽ" の近くまで帰ってきたが店の周りは妙に人が多い。
「「……う、うわぁ~……」」
状況を把握した俺とミスズからも全く同じ言葉が出てしまった。
そこには店先に出された椅子に座り、妙な作り笑いで列に並んだ民衆と順番に握手をしているクラちゃんの姿と、その周りをがっつり固める護衛の兵士たち。
少しでも長く握手をする者が居れば容赦なく兵士に引きはがされ、それはどう見てもアイドルの握手会そのものだった。
「あっ、しかもお店の商品がほとんど売り切れちゃってますよ!」
ムツキが少し興奮したような声でそう叫んだ。
近くにいた兵士に事情を聞くと、国王様の孫娘であるクラちゃんが "雑貨屋旅のしっぽ"の店番をやっているという事は一瞬にして王都内に広まり、一目その姿を見ようと沢山の民衆が初日から押しかけたという。
中には握手を求める者もおり、クラちゃんが何気なく「何かお店の物を買ってくれたら握手しても良いですよ」と言ったから大変。
"旅のしっぽ" で何か購入すれば国王様の孫娘と握手ができるという噂は瞬く間に広まり、今のこの惨状になってしまった。
「「「クラちゃん、ただいま……」」」
「三人とも~助けて下さいよ!」
「いやでも、この状況で握手会打ち切ったら多分みんな怒るんじゃないかな……」
店の商品がたくさん売れてムツキは上機嫌だったが、俺達にはどうする事も出来ない。握手会は今並んでいる人だけで終わりにして貰いあとは見守るしかなかった。
「もう店番なんてしませんからねーー!!!」
作り笑いのクラちゃんによる握手会は夕方まで続いた。