事件の真相(2)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
国王様…国王様
クラ…国王様の孫娘
謎を解く為のピースは揃った、あとはこれをどうやってはめて行くか……だが俺にはこの時点でおおよその見当がついていた。
「国王様、今から俺の推理をお話します」
今回の事件の黒幕は隣国で魔物の調教に当たっていたという魔術師(科学者)で間違いないと思う。
プロジェクトが中止になり王宮を離れた後、魔物の調教に関する研究を独自に続け、何らかの切っ掛けで成功して複数の"コントロールできる魔物"を手に入れたとみて間違いない。
以前オーラド村で村長が飼いならしていたハイウルフ達は妙に人慣れしていた事から、どうせここから逃げた奴らが繁殖したって所じゃないか。
「それに関しては私も異論はない、隣国の態度などを見てもそのあたりが妥当な所だと思うな」
「そうですねっ」
この魔術師の目的は、一定の条件が揃うと不思議な事が起きるという猫神様の力とみて間違いないだろう。
”暗闇が水を包む時、静まり返った村は魔物によって滅び猫神様に力が宿る” という歌詞が示す通り、湖のあるレイク村が暗闇に包まれる夜中に何らかの儀式を行う事で、村が滅びる代償として猫神様の力を手に入れる事が出来る。
奴らはその儀式を洞窟の中で行っており、村内を徘徊して特定の場所に座り込んでいたハイウルフは儀式に必要な存在、儀式が進むと狂暴化して歌詞にある村を滅ぼす魔物に成り代わるとか……。
「なっ、確かに……それだと説明がつく」
しばらく黙り込んでしまった国王様はこう続けた。
「実はシュウ君には話しておらんかったが、レイク村はずっと昔キングボアという魔物によって一度壊滅した事があるんじゃ」
「えっ、そういえばキングボアで小さな村が壊滅っていう話を聞いた事がありましたが、レイク村の事だったんですか……」
「私もあまりに昔の事で詳しくは知らんのだが、その後だったと聞いておる。猫神様に導かれたという開拓者 ”サクラギ・ミツル” 様がこの国にいらっしゃったのは」
「やっぱり……」
「じゃ、じゃあ湖のお魚さんが減っていた事も関係してるんですかっ」
湖の小魚が減っていた理由は簡単、あいつらは月の光にも反応してぴょんぴょん水面を跳ねていた。"静まり返った村" にする為にそれは邪魔な存在、駆除したかエサか何かで遠くに引き付けていたんだろ。
そして強い魔物が妙に少ない山と、毒を持たない筈のウサギに触れて粉断草の毒に似た症状になったヨツカ。
この世界でも弱肉強食の原則は変わらず、強い魔物は弱い魔物を捕食する。桃耳ウサギのような弱い魔物に粉断草の毒を塗っておけば、それを捕食した強い魔物は勝手に死んでくれる事になる。
いくら飼い慣らしたハイウルフが傍に居るとは言え、魔術師が長期間にわたって森の中に滞在していたとすればリスクを排除しておくに越した事は無いだろう。
「その毒付きウサギを運悪くヨツカちゃんが触ってしまって、姉のミツカちゃんが王都まで解毒薬を買いに来ていたって事でしょうかっ……」
「そんな所じゃないかな」
俺の推理を聞いた国王様の表情は穏やかではない。もしこの推理が正しければ、洞窟に潜んでいた魔術師を捕縛できていない現状ではまだ諸々の危険が残っているという事になるからだ。
「これは隣国と共同で山を捜索しなくてはならないかもしれないな……」
「いいえ、恐らくその必要はありません。魔術師が潜伏している、もしくは重要な情報が残されているであろう場所はおおよそ目途がついています」
「なにッ!」
バスは帰り道も順調に走り続け、お昼前には王宮へと無事に帰って来る事が出来た。国王様が無事に戻られた事で王宮関係者は心底安堵した様子だった。
そういえば"旅のしっぽ"の店番をクラちゃんに任せてたんだっけ……
「ミスズ、ムツキ急いでお店に戻ろう」
「「はい!!」」
嫌な予感しかしない俺達は国王様から今回のお礼として革袋に入った金貨を受け取ると、急いで雑貨屋旅のしっぽへと向けてバスを発車させた。