事件の真相(1)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
ミツカ・ヨツカ…レイク村で宿屋を経営する姉妹
「い、いえ。この辺りで今まで毒を持った魔物が出たという話を聞いた事はありません。なので私もそこまで警戒せずに森へ入ってしまったんです」
「どんな魔物だったんですかっ!?」
ミスズは英才教育のお陰か魔物に関する知識も多く持ち合わせている。そんなミスズでさえもこの辺りに出没したという毒を持った魔物については思い当たる物がなかった。
「私は桃耳ウサギだと思ったんです。だから抱き上げたんですけど急に意識が遠のいて……」
「桃耳ウサギって大人しいんじゃなかったっけ?」
「はいっ、滅多な事では噛んだりしない魔物の筈です」
「いえ、私は噛まれていないんです。ただ抱き上げたら突然意識が……」
「「抱き上げただけで!?」」
ミスズが言うにはウサギ型の魔物は他にもいるけど、毒を持っていたりましてや触れただけで毒に感染するような魔物は聞いた事が無いという。
もしかしたら新種? 突然変異? でもそれより俺はもう一つ気になる事があった。
「何で王都にある解毒薬が効くって分かったの?」
「あっそれは、森に生える粉断草という毒草に触れてしまった時の症状によく似ていたので、もしかすると効くんじゃないかと村の薬師さんが」
「粉断草……?」
「はい、この辺りでは見かけない珍しい植物ですが隣国では比較的多く生えていると聞きます」
「隣国……?」
また一つ妙なキーワードが増えてしまった……。ヨツカにお礼を言い朝食を堪能した俺達はバスに乗り込み王宮支部へと国王様を迎えに向かった。
「ミスズは今回の事どう思う?」
「隣国の仕業で決まりなんじゃないですか? この街を使ってハイウルフが命令通りに動くか実験していたんだと思いますけど、それなら説明もつきますしっ」
確かにそれなら一見すると筋が通っているような気もするけど、細かな謎が多く残ってしまう。
「ムツキは……そうか、今回の件あまり良く知らないのか」
「はいっ!!」
元気よく返事をするムツキ。
「「「おはようございます国王様」」」
「おはようみんな、今日も宜しく頼むよ」
「「「はいっ」」」
国王様を乗せたバスはレイク村を出発した。今日は帰路の途中で会談の話を聞いてみたい。俺は運転席の真後ろの座席へと座った国王様に話しかけた。
「国王様、先日の会談はいかがでしたか?」
「ああ、そういえば報告がまだだったな。だいたい察してはいると思うが隣国の奴らは何も知らないの一点張り、これと言った成果は無かったよ」
「そうですか……」
「しかし話を聞いていると、どうも何かを隠しているというよりは本当に何も知らない……そんな印象だったかな。しかし、ただひとつだけ認めた事があってな。確かにハイウルフを訓練して軍事力にするというプロジェクトがあったらしく、驚くべき事に成功していたというのだ。」
「「成功していた!?」」
隣で聞いていたミスズも驚いたように声をあげた。
「ただ一匹訓練するのに莫大な費用と時間がかかってしまい実用性が無いと判断してだいぶん前に中止したらしいんじゃ。何でもそのプロジェクトを担当していた魔術師は大変優秀だったらしく、今は何をやっているのかと懐かしがっておったよ」
この世界で言う魔術師というのはいわゆる科学者の事だ。
「その時の生き残りが繁殖して……という可能性は……無いか。」
途中まで自分で言っていて気付いたけれど、もし自然繁殖が原因なら全頭が首輪をつけていた理由の説明がつかない。
「飼育していたハイウルフはプロジェクトの廃止と共に全頭殺処分したそうだ。」
「ちなみにそのプロジェクトを担当していたという魔術師の方は王宮を辞めちゃったんですか?」
「今は王宮を離れて行方が分からないと言っておったな」
……
「国王様、多分それじゃないでしょうか」