レイク村の夜(2)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
ミツカ・ヨツカ…レイク村で宿屋を経営する姉妹
「今日は一部屋しか空いてませんけど」
俺達はまだ何も言っていないのに、宿に入るなりミツカがそう言って来た。
「残念ですが今日は本当に埋まっていて空いているのは一部屋だけなんですよ。まさか泊るとは思っていませんでしたし……国王様達はどうされたんですか?」
「国王様達は王宮支部で泊まるんだってさ」
「それは良かったです、じゃあちょっと狭いですけど我慢して三人で使って下さい」
「「「ええっ!?」」」
車中泊もできるけど、できれば完全に横になって寝たいし、そもそも昨日だって三人同じ部屋で寝たという事もあって仕方なく今夜も一緒の部屋へ滞在する事になった。
「ここって……」
「ですねっ……」
「あらー」
鍵を受け取った俺達が部屋へ行くと、そこには大きなベッドが一つだけ。そう、通常は二人で使うダブルルームの部屋だった。
「そういえば、ちょっと狭いですけどとか何とか言ってたっけ……」
「ま、まあ仕方ない……です……よねっ」
さすがにこれは二人に悪いと思った俺だったが、ムツキは疲れた~と早速ベッドにダイブしており気にしている様子は無い。ミスズはと言うと頬を赤らめつつも嫌がっている感じは無いから一晩我慢して貰う事にしよう。
……疲れたオーラ全開のムツキだけど、今日はバスでメイドさんと喋りながらお菓子食べてただけじゃなかったっけ?
「じゃあ私、お風呂入ってきますね」
「あっ、私も一緒に行きますっ!」
この宿には、というよりこの世界にはシャワーのような便利な物はない。ましてや風呂が各部屋に付いているなんて事は無く、宿の一階にある共同風呂を利用するのが一般的である。
一人部屋に残された俺は特にやる事も無いので考えていた。
今日の国王様の様子からして、良い感触があったとは思えない。というよりもし本当に関与していたとしてもそう簡単に認める訳が無いだろう。
なので今回の会談は真摯に話し合うというよりも「貴国のやっている事は分かっているんだぞ」という忠告の意味合いが強いんじゃないかと俺は思っている。
さらわれた二人が無事に見つかったのは良かったけど、いったい奴らの目的は何だったんだろう。俺は近くにあった紙に今分かっている事や気がかりな事を書き出してみた。
・突然居なくなったレイク村の小魚たち
・夜、村のあちこちに座り込み何かをしていたハイウルフ
・山中の洞窟でそのハイウルフを操る謎の人物たち
・”暗闇が水を包む時、静まり返った村は魔物によって滅び猫神様に力が宿る”という歌詞
・以前にも日本人がこの世界へ来ていた事
・猫神様と呼ばれる神が宿った猫の存在
・強い魔物が妙に少ない山中
かなり情報は出揃っているように思える。もう少し、何かあと少しの切っ掛けがあれば全ての事柄が繋がりそうな、そんな気がしていた。
「「キャァァァーー!!!」」
一階からもの凄い悲鳴が二人分聞こえて来た。ミスズとムツキの声だ。ムツキだけならまだしもミスズまでがあんな悲鳴を上げるという事は……とても嫌な予感がした俺は部屋を飛び出し、階段を何段か飛ばす勢いで一階へと駆け降りた。
「ミスズ、ムツキ大丈夫か!!」
扉にかかる札は「入浴中」となっていたが今はそれどころじゃない。万が一にもまた別のハイウルフが現れて二人をさらうような事があれば何としてでも阻止しなければいけない。
バーンと勢いよくドアを開けると、二人は風呂場の端の方に座り込んでいた。あたりに魔物のような物は見当たらない。
「いやァァァ!! 出てってッッ!!」
その直後、さっきよりも大きな二人の悲鳴と共に俺の方へ石鹸やらタオルが飛んできた。
「えっ、えっ!?」
慌ててドアを閉めた俺は、ドア越しに二人へ話しかけた。
「ご、ごめん、一体どうしたの!? 魔物か何かに襲われた!?」
「大丈夫、大丈夫、大丈夫だからっ! ミツカちゃんかヨツカちゃんを呼んできてっ」
ミスズの声だけが聞こえて来る。とにかく本人たちが大丈夫と言うんだから後で話を聞けばいいかと俺はお風呂場を後にし、調理場にいるヨツカを呼びに行った。