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少女の護衛はお任せ下さい(2)

【今回の登場人物】

シュウ…バスと一緒に転移した主人公

ミスズ…王都にある商家の娘

ミツカ…レイク村にある宿屋の娘

「あの子はレイク村まで一人で帰るんでしょうか……」


「護衛を失ったって話だし、新たに雇えるような状況にも見えなかったよな……レイク村ってここから遠いの?」


「馬車だと四日ぐらいの距離ですっ」


 四日というと百六○kmぐらいだろうか。路面状況にもよるけれどバスなら夕方頃には帰って来れそうだ。


「……あの子をレイク村まで送って行くよ」


「私も行きますっ」


「だめ」


 魔物も出るだろうし何があるか分からない以上ミスズを危険にさらす訳にはいかない。


「バスに乗っているし、シュウ君もいるから大丈夫ですよ。あ、でも王都を発つ前に私の屋敷に寄って下さいね」


 俺が説得した所で意味は無さそうだし、屋敷に寄るなら危険な旅に自分の娘を行かせる訳が無い。マルセルさんがきっと引き止めるだろうと思い了承したその時、少女が戻って来た。


「あの、無事に薬を買う事ができました、本当にありがとうございます」


「君はこれからレイク村まで一人で帰るの?」


「はい、この街で再び護衛を雇う程の余裕はありませんので……」


 やっぱりと顔を見合わせる俺とミスズ。こんな少女に一人で四日の旅をさせる訳にはいかないし、到底無事に帰り着けるとは思えない。それはつまり二人分の命が失われる事を意味する。


「実はこれからちょうどレイク村へ向かう所だったんだ。良かったら一緒に乗って行かないか?」


 安っぽいナンパみたいになってしまったのは不本意だが、恐らく村まで送って行くと言っても彼女は断るだろう。そう思った俺は少し言い方を変えて同乗を提案してみた。どのみち検証を兼ねてしばらくバスを走らせる予定だったし目的地がある方が良い。


「あ、ありがとうございます!! でも……」


「大丈夫、私たちに任せてくださいっ!」


 ミスズはマルセルさんとお留守番だけどね。心の中でそうつぶやいた俺は二人を乗せ、通行証の申請を手早く済ませた後ミスズの屋敷へと向かった。


 バスに乗ったミツカはと言うと、ふわふわの椅子と走行中もほとんど揺れず馬車とは比較にならない快適さに終始驚いている。


「いらっしゃいシュウ君」


 傷だらけの少女を見たマルセルさんは服の代金など支払えないという少女に対し、そんな事気にするなと笑いながら新しい服を用意させ、傷の手当てを施してくれた。


「お父様、私達これからちょっとレイク村まで行って参ります」


「おおそうか、日暮れまでには戻るのか?」


 明らかに会話の内容がおかしい。魔物が出る四日の旅路に送り出す父親の言動ではなく、まるで近くに遊びにでも行くかのようだ。しかしマルセルさんが良いと言うのであれば仕方ない、ミスズの同伴が決まった。


「それじゃあ、しゅっぱーつ!」


 ここから王都の門まではニ○分ほど、王都内は綺麗に整備されているが危ないので馬車程度の速度しか出す事ができない。すぐに着くから大丈夫と言っても信じてもらえず、今から四日の旅になると思い込んでいるミツカは食料の心配をしている。


「ミツカの家は村で宿を経営してるって言ってたよね」


「はい、宿屋と一階に宿泊者向けの料理屋もあります」


 バスの時計を見ると今は朝の九時半、今日のお昼ご飯はミツカの宿の料理に決まった。


≪ギギギ……≫


 王都の門が開かれ、目の前には一本の道が遠くまで続いている。ここからがバスの本領発揮と言った所だろう、お昼ご飯の時間までに……いや一瞬目的を忘れていたけど、少しでも早く妹さんの元へ薬を届けなければいけない。


 五○……六○……七〇……八○km/h。レイク村までの道は沢山の馬車が通るからか、しっかり踏み固められており凹凸も殆ど無くて走りやすい。このペースだと二時間もあれば着いてしまう気がする。


「ひぃぃいぃぃぃぃ」


 後ろから小さな悲鳴が聞こえた。さっきまでは馬車ぐらいの速度で走っていたので、まさかこんなにスピードが出るなんて思っていなかったのだろう。でも万が一この速度で魔物にぶつかったら……そう考え少しスピードを落とそうとしたその時、


≪トンッ≫


 少し軽めの音がしてバスへ何かがぶつかった感覚と共に空高く舞い上がる魔物。慌ててブレーキをかけ引き返してみると、そこには地面に横たわるオオカミ型の魔物が二匹いた。


「ハイウルフ……Bランクの魔物ですっ」


「あ、わ、私たちの野営を襲ったのはこの魔物です!!」


 ミツカの顔が恐怖にひきつる。あれだけの速度でぶつかったにも関わらずハイウルフに外傷は見当たらないが既に死んでいるようでピクリとも動かない。


「なあ、これってレイク村へ持って行けば買い取って貰えるのかな?」


「外傷もありませんし、Bランクの魔物ですから良い値が付くかもしれませんよっ」


「えっ、えー!?」


「ちょっと運ぶの手伝ってもらえないかな」


 冷静に話す俺とミスズに対し、オロオロしながらも運ぶのを手伝ってくれるミツカ。バスに外傷はないしどうやら少々の速度で魔物に追突しても問題無いらしい。


「それじゃあ改めて、しゅっぱーつ!」


「ひぃぃいぃぃぃぃ」


 魔物を積み終わった俺たちは再びバスを発進させた。

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