連れ去られた親子(4)
【今回の登場人物】
国王様…国王様
ラフロ…レイク村の守衛。山で家族を魔物に連れ去られる。
ラフロさん親子…ハイウルフに連れ去られ、逃げ延びて隣国で保護された親子
ケガのひどいラフロさんの娘はバス前方で席を最大まで倒し、母親に寄り添われながら苦しそうに横たわっている。
隣国を出発したバスはしばらく順調に走り続け、少し走った所でトイレ休憩の為に路肩へと停車した。
このバスにはお手洗いが付いているので走行したままでも問題無いと言えば問題ないんだけど、路面は舗装されておらず特にここは道幅が狭くて揺れの激しい山道。
走行したままの状態でお手洗いなんて使おう物なら大変な事になってしまうので、トイレを使う時には停車する事にしている。
その隙を見て親子の様子を見に行ってみた。乗車した時より少し落ち着いてはいるものの額には汗をにじませて苦しそうにしている。
「だいぶん汗が酷いようですが、もう少し車内を冷やしましょうか?」
この世界には当然冷房なんて物は無い。
今までちょっと暑いなと感じる日には俺が自主的に冷房を入れ、特にその事については何も案内をしていなかった。乗客からすると「このバスなんか涼しいな」ぐらいの感覚だったんだと思う。
別にいままで隠していた訳でなく単に説明するのが面倒だったから。もちろんミスズにはちゃんと教えている。
しかし今回は国王様も乗っているし、俺の感覚からしたらそこまで暑いという訳でも無い。ここで冷房を更に強めると他の人が不快に感じてしまう可能性もある。
「できるんならもう少し涼しくしてやってくれ」
「ありがとうございます……」
同じく様子を伺いに来た国王様もそう言ってくれたので冷房をもう少し強くしてあげよう。トイレ休憩が終わり出発したバスの冷房を三段階引き上げた。
さすがに季節は夏とは言えここまで冷やすと寒がる人も多く、ミスズが揺れる車内で毛布を配ってくれている。
その後もバスは強い魔物に遭遇する事も無く、数匹の弱い魔物と接触して燃料が少し増えただけで中継地であるレイク村の近くまで戻って来る事が出来た。
バスの時計は午後四時。思っていたより遅くなってしまったけどひとまずレイク村までは到着できたのでここから王都までは飛ばせば二時間ちょっと、最悪の場合はミツカの宿で一泊お世話になればいいか。
「行きも帰りもこの行程では全く強い魔物を見なかったけど、この辺りはこんなもんなのかな……」
「さあ……でもだからこそあの二人は生き延びられたんじゃないですか? あっもう直ぐ到着ですねっ」
そう言うとミスズはマイクを取り、もうすぐレイク村へ到着する事と守衛詰所へ立ち寄る事を車内放送で説明してくれた。もう手慣れたもんだな。
バスは無事にレイク村で守衛さん達が集まる詰所……という名の少し広い民家っぽい建物に到着した。その後はもう大変、たまたまその場に居合わせたラフロさんはバスから降りて来た妻と娘を見てまるで幽霊でも見たかのように驚いた。
ハイウルフに連れ去られた時点で生存は絶望的。しかも幼い娘までもがケガ程度で済んだというのは奇跡以上の出来事に感じられたんじゃないかと思う。詰所にはすぐに村の薬師が呼ばれ、手当てが行われた。
国王様達はこの時間を使って村にある王宮の支部へ顔を出すと言い残し詰所を離れている。
「あのこんな時になんですが、魔物に連れ去られた時の事を詳しく教えて頂けませんでしょうか」
「はい、もちろんです……でも何からお話すればよいのか」
娘さんの処置が終わり、ひと段落した所で俺達は奥さんからハイウルフに連れ去られた時の事やその後について詳しく教えて貰う事にした。