連れ去られた親子(3)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
国王様…国王様
ケルン…森で親子を保護したキノコ露店の店主
その後ムツキは何か珍しい物が無いかと街へと繰り出して行き、会談が終わる頃合いを見計らって俺は国王様を呼び止めた。
「おおシュウ君ちょうど良かった。会談も無事に終わったのでこれから帰路に着こうと思っていた所なんだ」
国王様の表情を見る限りではあまり良い成果があったようには見えない。
俺はハイウルフにさらわれたという親子が森で発見されこの街で保護されている事、娘が大怪我を負っており適切な処置が必要な事などを国王様へ説明し、レイク村までの搬送を相談してみた。
「ハイウルフに連れ去られながら生きていたと言うのか!?」
「信じ難い事ですが、そうだったようです」
「しかしそういう事であれば断る理由など無い、帰りのバスにその親子も乗せてレイク村へと向かおう」
「有難うございます、きっとラフロさんも喜ぶと思います」
今日の会談結果については帰路のバス内で詳しく聞く事にし、他に用事もないという事で暗くなる前に帰り着けるよう早めに出発する事になった。
そういえばムツキは帰って来たのかな。
携帯電話などないこの世界。街の散策に出かけたムツキが戻っていなかったら出発する事が出来ずちょっと面倒な事になってしまう。
しかし俺のそんな心配をよそにムツキはちゃんと帰って来ていた。
思っていた程物珍しい物も無く、意外と自分たちの国と同じじゃないかというのが散策した感想だったようである。
「国王様が暗くなる前に着けるよう、早めに帰ろうってさ」
「「分かりましたっ」」
「さっき国王様に確認したんだけど、あの二人の同乗OKが出たから街を出る前にもう一度家に寄ろう」
「はいっ!」
特にお土産を買い込んだ訳でも無く、ムツキもこれと言って荷物が増えていないので帰る準備はすぐに終わった。
一泊お世話になった王宮の方々にお礼を言った俺達はバスへと向かい、バスへ荷物を積み込む手伝いをしている。
往路同様トランクルームへはやはり大量の荷物が積み込まれ、ちらっと見た限りでは食料などもあるようだ。そして荷物の積み込みが終わると同時に国王様達もバスへと乗り込んできた。
「それでは先ほどお話した通り、レイク村へ向かう前にまずラフロさんの家族を迎えに行きたいのですが宜しいでしょうか」
「ああ構わん、娘は処置が必要と言っていたがこの街で薬を調達しなくとも良いのか?」
「恐らくレイク村へ着いてからで大丈夫だとは思いますが、もう一度母親に確認してみます」
全員が座席へと座ったのを確認し、ミスズのいつものやつを待った。
「それではラフロさんの家族を迎えにしゅっぱーつ!」
ここからケルンさんの自宅までは王宮の馬車が先導してくれる事になっている。
必要ないと断ったが、入国時の粗相もあり国としてはしっかりやっておきたかったのか断り切れなかった。
「きっと驚くだろうな……王宮の馬車とバスが同時にやって来るなんて」
「しかも中には国王様が乗ってるんですよっ」
ミスズとそんな事を話しながら馬車に先導されつつバスはケルンさんの自宅へと向かって行った。
「ケルンさんこんにちはー」
何気なく出てきたケルンさんはそりゃもう驚いた。いや、驚いたというより一体何事かと焦りに焦って軽くパニックになっているようにも見える。
「先ほどお話した通りお二人を迎えにきました」
「い、いや、だって王宮の……それになんだよこのデカいの」
念の為に娘さんの状況を確認したところ、母親の言うには娘のケガは緊急を要するほどでは無く安静にしていれば問題無いんじゃないかとの事。
とは言え適切な処置が必要な事に変わりは無いので、できるだけ早めにレイク村へと送り届けその後はラフロさんに任せたい。
俺はバスの座席の一つを最大限まで倒し、娘さんを運び込むようにと母親を促した。
最初は見た事の無いこのバスに戸惑っていたが、日暮れ前までにはレイク村へ到着できるという事、魔物に襲われる心配はないという事を説明すると安心したようだった。
その後同じバスに自国の国王様が乗っていると言う事を知りガチガチになってしまったけどそれは仕方ない。
「それではレイク村へと向けてしゅっぱーつ!」
ここからレイク村へと繋がる道は細く荒れている場所がある。
ケガが治っていない娘さんの為にもできるだけ揺れが少なくなるよう丁寧に運転しよう。