国王様の護衛はお任せ下さい(5)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
バスの時計は午後八時、予定より二時間遅れで俺達は無事に隣国であるサノワ王国の王宮へと到着した。
しかしこれは路面状態が悪く速度が出せなかった事が原因というよりは、隣国の街へ入る時に見慣れないバスに乗っていた事から警戒されてしまい手続きに時間がかかったからと言った方が正しい。
今日我々が訪問する事はちゃんと伝わっていのだが、さすがにバスについての詳細までは伝わっていなかった。
「この度は大変な失礼があり申し訳ございませんでした」
手厚く出迎えられた俺達はまず最初に丁寧な謝罪を受けた。
いくら俺達が奇妙な乗り物に乗っていたとは言え、事前にちゃんと連絡もしていた以上こちら側に非は無い。
王宮の紋章まで付いた乗り物を長時間足止めさせてしまった事はサノワ王国側の明らかな失態であり、バスの中では上機嫌だった国王様も今はあまり機嫌が良いとは言えない。
この事はもしかすると会談の結果にも影響してくるんじゃないだろうか……。
国王様や側近の方々はこれから歓迎の式典や晩餐会など、俺達が聞くといかにも退屈そうな公務に従事されるという。
高い地位の人っていうのも色々と大変なんだな……。
俺とミスズ・ムツキはと言うと、今回は国王様の乗る馬車の運転手という位置づけなので当然晩餐会には参加しない。
本来なら付き人用のやや簡素な部屋に泊るのだが、国王様が俺達の事についても取り計らってくれたようで妙に丁寧な接待を受け、贅沢な夕食を頂いた後は豪華な来賓用の客室を使わせて貰える事になった。
それなりの部屋と言うだけあって豪華な装飾が至る所に施され、とても広い部屋の中には四台の大きなベッドと豪華なソファーが据え付けられている。
だが一つだけ問題があった。
「あれ、もしかして同じ部屋……!?」
案内してくれた使用人の方はどこかへ行ってしまい、部屋には俺たち三人だけが残されている。これから違う部屋に案内される気配は無いので、そういう事なのかもしれない。
「なっ、またっ……」
そういえばミスズとは湖水浴ツアーの時にレイク村でも似たような事があったっけ。
「私は別に構いませんよ、ベッドだって四台もありますし枕投げでもやりましょう!!」
ムツキとは常日頃から黒猫亭の二階にある隣同士の部屋で暮らしている。バストイレは共同だし、家の中で兄妹別部屋ぐらいの感覚なので、そりゃあ確かに今更感があるのは否めない。
「なっ、なっっ……まさか二人は……」
それを聞いたミスズは顔を赤らめオロオロし始めた。何やら変な誤解をしているみたいなので、ここはちゃんと否定しておかないと後々面倒な事になってしまう。
「「何もありませんっ!!」」
「ほ、本当ですか? ムツキちゃんシュウ君を襲ったりしてないですよね」
「「……それ逆じゃない!?」」
「何も無いなら別に良いんですっ」
ひとまず今日はみんなでこの部屋を使おうという事になり、「じゃあ今日は私がシュウ君の隣で寝てあげますっ」という謎の宣言と共にミスズが隣のベッドへと入って来た。
俺は長時間の運転で疲れていた事もあってできるだけ早く休みたかったけど、ムツキが「どうしても!」「一回だけ!」と譲らないので寝る前に一回だけ枕投げをやる事になった。
その後、理不尽な事に二人の少女から集中攻撃を食らった俺は早々にギブアップ宣言をし、おやすみっと布団へ潜り込んだ。
「話し合い、うまく行くと良いな……」