国王様の護衛はお任せ下さい(4)
【今回の登場人物】
ミツカ・ヨツカ…レイク村で宿屋を経営する姉妹
ヨツカの料理は国王様とその一行にも大変好評だった。
そりゃあ毎日食べている王宮の料理と比べたら見劣りしてしまうが、新鮮な魚介類をふんだんに使った料理は王都で味わう事が出来ないこの土地ならではの味覚だった。
「二人ともありがとう、国王様もだいぶん満足したみたいだし助かったよ」
「ホント、冷や冷やしましたよもう……」
「あっちなみに明後日王都に帰る予定だから、お昼過ぎか夕方ぐらいにまたここを通るのでその時は宜しく」
「「ひぎゃぁぁー!!」」
隣国へ行くにはこのレイク村を通るルートが一番良いし、食事が無ければ王宮支部で休憩をしても良いんだけど……何があるか分からないからまた電撃訪問にならないよう、一応一言言っておく事にした。
「あっそういえば忘れる所だった」
俺は以前、負傷した王宮兵を深夜に運び込んだ時の事を思い出し、国王様から預かっていた謝礼金をミツカに渡した。
「えっ……こんなに貰っちゃって良いんですか」
「さあ、俺は中を見て無いから何かあるなら国王様に直接言ってよ」
「「いやいやいやいや」」
革袋の中には金貨が五枚入っていたらしい。
ミツカの宿は一泊銀貨三枚。十七人の負傷兵が朝まで滞在したので正規料金を取るとすれば銀貨五一枚。
食事代や薬代なんかを考慮しても金貨五枚はとんでもない金額だった。
「「是非またのお越しをお待ちしております」」
今回は正規の食事代だけだったが、報酬を貰った事で急に二人の態度は変わった。
「では皆さんの乗車が完了しましたので、隣国に向けて出発したいと思いますっ! しゅっぱーつ!」
ここから先は俺も行った事が無い未知のエリア。
そして俺には一つだけ心配な事があった。
バスがこの特殊な能力を有しているのは猫のスパイスケースが車内にあるお陰、それは以前に検証が済んでいる。
この猫のスパイスケースに猫神様が宿っているとか、良く分からないけど何かそんな感じで関係しているんだろう。
”この国では猫が神様として崇められている” そう、”この国では”。じゃあ隣国に行ってしまうとどうなるのか。
まさか隣国に入った途端にバスの能力が失われるなんて事は無いと思うけど、やっぱり未知の事をする以上は警戒をしておいた方が良いのかもしれない。
「隣国との境に着いた時には教えて頂けませんか?」
俺は道案内役として近くに座っている王宮の執事さんにお願いした。
「承知しました、この先は少し道が細くなり起伏が激しくなります」
執事さんの言う通り路面状態は急に悪くなり、起伏も激しくなって来た。幸いな事に雨は降っていないので、ぬかるみにハマって動けないという事態にはならないが、決して走りやすい道とは言えない。
バスは大きく上下左右に揺れるようになり、速度も思うように出せなくなってしまった。
予定ではバスの時計で午後六時頃に隣国の王宮へ到着する予定だったが、これはもしかすると大幅に到着が遅れてしまうかもしれない。
「確かこの辺りが隣国との境界だったかと思います」
後ろの席から執事さんが話しかけて来た。境界と言っても国境のように明確な線や門などがある訳では無く、一見するとただの草原という感じだった。
「有難うございます、じゃあこの草原を抜けると確実に隣国に入ったと考えて良いでしょうか」
「そうですね」
バスは順調に走り続け、草原を抜け危機が生い茂る森へと入って行った。
以前スパイスケースをバスから持ち出した時、一瞬にしてバスはボロボロの外観になってしまった。隣国に入った事は間違いないので、バスに変化が無い以上は一応効力が持続していると考えて問題無いのかもしれない。
「あっ、あれは赤耳ウサギかな?」
ちょうどいい具合に適度な弱さの魔物が現れてくれた。
《 トンッ 》
軽い音と共に赤耳ウサギへ接触し、バスの燃料計が微妙に上昇した。
国境には関係なく猫神様のご加護はあるらしい。
一安心した俺は、アクセルを踏み込み路面状態がさっきより良くなった森の道を走り続けた。