国王様の護衛はお任せ下さい(2)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
クラ…国王様の孫娘
ミツカ・ヨツカ…レイク村で宿屋を経営する姉妹
「それじゃあクラちゃん、店番宜しくお願いします」
「はい、留守の間はしっかりお店を守ってますから安心して下さい!」
出発当日の朝、”雑貨屋 旅のしっぽ” はクラちゃんの護衛として派遣された王宮の兵士達で物々しい雰囲気になっていた。
そりゃあそれだけの兵士がお店を囲んでいれば別の意味でしっかりお店は守れるかもしれないけど……
「これ、お客さん寄り付くかな……」
この状況にはミスズもムツキも苦笑いをするしか無い。
日頃から大した数のお客なんて来ていないので売り上げの面ではそう変わらないかもしれない。でも、前にオーラド村の村長が俺達の事を「王宮も恐れる運送屋」とか言ってたし、妙な噂がたってしまわないかな……。
少し不安な俺達三人を乗せたバスはクラちゃんと護衛の方々に見送られながらお店を出発した。
「それではしゅっぱーつ!」
今回はいつも通りミスズが定位置に座り、ムツキは後ろの席でフカフカしている。
バスの時計は午前九時。ここから王宮に立ち寄って国王様達を乗せ、お昼休憩をレイク村で取るというスケジュールになっていた。
「国王様、おはようございます」
「おはよう、今日は宜しく頼むよシュウ君、ミスズちゃん。おや今日はムツキちゃんも一緒なんだね」
「「はい、宜しくお願いします」」
トランクルームには様々な荷物が積み込まれ、護衛として同伴する王宮兵が八名、世話役のメイドが二名、秘書が一名と最後に国王様がバスへと乗り込んだ。
基本的に国王様が国外に出るような事はまずありえない。
馬車移動が中心で外には魔物がうじゃうじゃいるこの世界ではあまりにもリスクが高すぎる為、重要な会談であっても側近や外交官だけで旅をする。
しかし今回はバスという一国の軍隊以上の力を持つ乗り物があるので国王様直々に旅をされる事になった。
国王様と言えども人の子、実はちょっと旅をしてみたかったのかもしれない。そしてもちろん国王様がバスに乗るのはこれが初めて。
普段から相当豪華な馬車で移動しているという事もあってさすがに座席のクッション性には驚かなかったが、リクライニング機能をとても気に入ってくれたようで絶賛している。
「それでは、まずはレイク村へと向けて出発します。しゅっぱーつ!」
やっぱりしっくり来るミスズのこの掛け声を合図にバスはゆっくりと王宮を後にした。
今回もバスの前面には王宮の紋章を目立つように掲げており、いつも通る西門では事前に連絡が行っているのか守衛さん達に止められる事も無く、そのまま門を通過する事が出来た。
「それでは、ここからは少しスピードを上げて走行しますっ。揺れる事もありますのでできるだけ座席でお過ごしくださいっ」
もうすっかり車内放送にも慣れたミスズの声を聞き終え、俺はアクセルを踏み込んだ。
レイク村までの道はもう何度も通っており慣れている。このまま予定通りに運行し、お昼前にはレイク村へと着いて色々やる事を消化しなければいけない。
そろそろガソリンも減って来たし、魔物がいたらできるだけ接触するようにしよう。
バスは順調に走り続け、何匹かの魔物のお陰で給油も終えた頃にレイク村の入り口が見えて来た。
「もう間もなくレイク村へと到着ですっ。村内にある宿泊所の前に停車しますので、こちらで暫く休憩とし昼の終わりの鐘が鳴った頃に出発したいと思います」
村内にある宿泊所というのは、もちろんミツカとヨツカの宿の事だ。
本来ならレイク村にある王宮の支部にバスを付けるべきなのだが、王宮支部と言えどもレイク村にあるのは小さな建物。
食事をする設備も整っておらず、全員がゆっくり休む事も難しいという理由から色々と便利なミツカの宿にバスを付ける事になった。
二人には何も伝えていないので……というより伝える時間が無かったのでアポなしで国王様が電撃訪問するという恐ろしい事態になってしまうけど、まあどうにかなるだろ。
バスは宿の裏手にある開けた場所、美しい湖が見渡せるいつもの所へ停車した。