国王様の護衛はお任せ下さい(1)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同出店者
クラ…国王様の孫娘
「という事で国王様を隣国まで護衛する事になりました」
”旅のしっぽ”に戻った俺はミスズとムツキに国王様からの依頼を伝えた。今回は距離が距離なので日帰りは難しく、最低でも隣国で一泊する必要がある。
「私も行きます!」
「「えっ」」
話を聞いたムツキが今回は珍しく同行を希望して来た。これは温泉の件で味を占めたな。そりゃまあ座席には空きがあるから問題無いけど店番は誰がするんだよ……。
「今回は国王様の護衛だから温泉の時みたいに楽しい事は無いよ……」
「分かってます! でも隣国に行く機会なんてそう滅多にありませんし興味があるんですよ。もしかすると珍しい雑貨や商品を仕入れる事が出来るかも知れないじゃないですか」
「分かった分かった、じゃあ今回は三人で行こう」
毎回ムツキには留守番をお願いしているので多少申し訳ない気持ちはあるけど、一応雑貨屋とバスの窓口とは別なのである。雑貨屋を閉めてしまっても大丈夫なんだろうか。
俺のそんな心配をよそに、こういう時タイミング良くやって来る子がいる。
「話は聞かせてもらいました! お留守の間は私がこのお店をお預かりしましょう!」
「いや、クラちゃんが店番してると騒ぎになるからやめておいた方が良いと思うよ。どうせ今日も王宮を抜け出して来たんでしょ」
「……話は聞かせてもらいました!! お留守の間は私がこのお店をお預かりしましょう!!」
よっぽど店番やりたいんだなクラちゃんは。
「うん、国王様の許可があるなら私はクラちゃんにお願いしたいかな」
空気を読んでムツキがそう言ってくれた。その言葉を聞いたクラちゃんは飛び跳ねて喜んでいる。
今回は国王様の護衛なので、どうせそれと絡めて無理やりにでも許可を取り付けるつもりなんだろう。
「たぶん店番しててもクラちゃんが思っている程楽しい事は無いと思うけど……いいの?」
「いいです!」
そう言うと、さっそく聞いてきますねとクラちゃんは一目散に店を出て行ってしまった。
「それじゃあ明後日、レイク村に立ち寄って隣国へと国王様の護衛として出発します。たぶん今回は危険はないと思うけどミスズはちゃんとお父さんに行先を言っておくように!」
「はーいっ」
ムツキは気が早いのか早速荷造りを始めている。何で水着を入れているのかは分からないけど、レイク村ではそんなに長く滞在しないからね。
「シュウさん~おじいさまの許可を貰ってきましたよ!」
クラちゃんはと言うと、さっき出て行ったばかりの筈なのに護衛をぞろぞろと引き連れ国王様のサインが入った書面を持ってお店へと戻って来た。
国王様の許可がある以上は断る事も出来ないし、むしろ店番をしてくれるというのなら有難い。
「「「じゃあクラちゃん、留守の間お店を宜しくお願いします」」」
「お任せ下さい!」
店番と言ってもムツキの雑貨屋に来る客はそこまで多くない。商品案内をする必要も無いし、客からお金を受け取るだけの簡単なお仕事で済む。
バス窓口の方はというと、俺達が留守の時は完全に何もやる事が無い。依頼者が来た時は名前と住所だけを聞いておいてくれれば後日俺達が依頼を聞きに行く事になっている。
引継ぎと言う程の引継ぎも無く一日が過ぎ、いよいよ明日は国王様の護衛として隣国へ出発する日になった。