猫神様に導かれた開拓者
【今回の登場人物】
国王様…国王陛下
資料室で貯蔵物を漁りはじめもうだいぶん時間が経った。
残念ながら思っていた程の成果を上げる事は出来ず、唯一分かった事と言えば猫神様に導かれた開拓者という者の名前が「サクラギ・ミツル」という事だけ。
これは明らかに日本人の名前だし、俺と同じ苗字という事で何だか親近感も沸く。
しかしこれではっきりした。
過去にも日本から俺と同じようにこの世界へ来てしまった人がいるという事、そしてやはりそれには猫神様が関係しているという事。
「シュウ君、目的のものは見つかったかね」
「あっ、国王様」
「シュウ君がこの国の歴史資料を探していると聞いてね、私も昔の事は詳しく知らないんだが猫神様について少しばかり教えてあげられるかもしれない」
「是非お願いします!」
「”猫神様”と言われてはいるが、これは誰か一人の神を指す言葉ではない。今王都には沢山の猫が暮らしているが、彼らは今の所ただの”猫”であり、もしかすると今後”猫神様”になるかもしれない……そういう存在なんだ」
「猫は全て神様という訳では無いのですか?」
「そうだ。この国では昔から不思議な事が起きる時、近くに猫がいた。だから猫は神様の依り代と考えられていて、どの猫でも何かの拍子に神様になりうると言われているんだ」
「その……神様を降臨させる方法ってあるんですか?」
「そんな方法があったら私が知りたいよ。しかし色々な噂はあって力を得ようと怪しい魔術に手を染める物は多い」
「そうなんですか……」
「それはそうと、先日の件で隣国との会談が決まってな。もしシュウ君さえ良ければ隣国までバスでの護衛をお願いできないだろうか」
「もちろんです! 出発日程はお決まりでしょうか?」
王都を発つのは二日後、レイク村を経由して隣国に入るルートになり馬車だと片道十日間はかかる長旅になる。
という事はバスだと六~七時間ぐらいか。
国王様に加えて護衛として兵士を八名、定員は問題無いけどここまで長時間になるとさすがに途中で休憩を入れたい。
「国王様、レイク村で一度休憩を挟んでも宜しいでしょうか?」
「もちろん構わない、宜しく頼むよ」
そう言うと国王様は部屋を出て行った。
ちょうど良いし機会だし、レイク村で守衛さんに現状の経緯を報告して、ミツカには王様から預かっていた宿泊費分の報酬を渡しに行かないと。
意外とやる事があるな……。
でも今日は一定の収穫があった。開拓者と呼ばれた人物が日本人の可能性が高いという事。猫神様という存在についてや、怪しい魔術に手を染める者がいるという事。
調べ物はこのぐらいにして今日の所はそろそろお店に戻る事にしよう。
それはそうと俺は疑問に思っていた。
携帯電話も無いこの世界で、どうやってこの短期間にそんな遠く離れた相手と会談日程の調整を行ったのだろう。
しかし王宮を出る時に足へ手紙を結び付けられたタカのような鳥を目撃した事でその疑問も吹き飛んでしまった。
やっぱりこの世界の文明は遅れているが、地球と本質的には変わりないのかもしれない。