温泉の驚くべき効能
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同経営者
「シュウさん、あれから私すっごく調子が良いんです!」
朝俺が店に来るなり突然そんな事を言い出したムツキ。
「どうしたの急に……」
「いやそれが、昨日オーラド村の温泉に行ってから何だか分かりませんけどすっごく調子が良いんです」
「えっ、でも温泉に手を入れただけでしょ?」
「……ちょっとだけ飲みました」
「えっ!?」
「だってぇ、シュウさんが飲んでも美容に良いって言ったじゃないですか……」
「まあ確かにそうだけど、中には飲めない物もあって……あっでもムツキが飲んで何ともなかったんだから大丈夫なのか」
「酷いじゃないですか!! 私を実験台にしたんですか!!」
いや、あなたが勝手に飲んだだけ……と言いたいのを堪えて、結果的に体調が良くなったんだし、良しとしてくれないかと一生懸命ムツキを説得した。
「でも具体的にどう調子が良いの?」
「うーん何でしょう、お肌の調子も良いようなんですが疲れと言う疲れが全部飛んで行ってしまったような、そんな気がするんです」
確かに温泉には美容効果や疲労回復効果があるのかもしれないけど、さすがにそこまで効力は強くない筈。まあでもここは異世界なんだし、日本と違うのは当たり前か……。
「おはようございますっ。 あれムツキちゃん何かお肌が綺麗になった気が」
「そうですかそうですか!? やっぱりミスズちゃんもそう思いますか!?」
ミスズまでもがそんな事を言う物だからムツキはもう上機嫌。
昨日オーラド村であった出来事を得意げに話し、それを聞いたミスズの表情は険しい。
「シュウ君、今すぐオーラド村へ行きましょう」
やっぱりそう来たか……。
「今度ね」
温泉が出来たらみんなで入りに行こうと一生懸命説得を続け、何とかミスズは納得してくれた。
しかし完全に温泉へと心を奪われてしまったミスズはムツキをペタペタと一生懸命触っている。さすがにムツキを触っても温泉の恩恵は受けられないと思うけど……。
仕方が無いので俺は一人で王宮へと出かける事にした。
お祭りの時に演奏されていたあの歌の意味、そして猫神様の導きでこの地にやって来たという開拓者の事。それらの資料が王宮に残っているかも知れない……。
「こんにちは、今日は王国に関する昔の資料があれば見たくて来たんですけど」
王宮まで歩いて来た俺は、もう既に何度も訪れている事で顔見知りになった王宮の守衛さんに事情を説明した。
「ああそれなら資料室にあるかもしれない、ついて来いよ」
クラちゃんを呼ぼうかと提案されたが、今日は調べ物が目的なので一人でも大丈夫。王宮の資料室は予想以上に広く、多くの書物が貯蔵されていた。
大まかにジャンル分けはされている物の最終的には一つ一つ中を確認する必要があり、目的の資料を見つけるのはそう簡単ではなさそうだ。
「ありがとうございます、ちょっと探してみます」
「おう、ほどほどにしとけよ」
「さて、探すか」