オーラド村再生計画(3)
【今回の登場人物】
ムツキ…"旅のしっぽ"の共同経営者で今回はミスズの代わりの臨時パートナー
村長…オーラド村の村長
「それで、先日アンナさんがお店に来られたんですが……ご依頼とはどのような事でしょうか?」
依頼に来たのは村長の娘のアンナさんだが、恐らくそれは村長のお遣いで来たんだろう。
「はい、実はこの村にもっと観光客を、人を呼び込もうと試行錯誤しておりまして。そんな時に村の一角から温かいお湯が湧き出して来たんです」
「それって温泉じゃ?」
「……おんせん? ですか?」
そうか……この世界では温泉、いやそもそも公衆浴場という文化が無かったのか。
「私達もこんな経験は初めてで、このお湯を何かに使えないかと村民達で知恵を絞ったのですが何やら嗅ぎ慣れない匂いもありどうして良い物かと。
そこで様々な国を旅しておられると言うシュウさんのお知恵をお借りし、出来る事なら我が村へもバスツアーを実施して頂けないかとお願いに上がった次第です」
「そういう事でしたか。それでは、その湧き出たお湯があるという場所へ案内して頂けませんか?」
「はい、喜んで!」
どこかの居酒屋のような返事と共に村長は慌てて準備を始めた。
ここからお湯が出た場所はすぐ近くという事なので、バスは村長宅に停めたままムツキと一緒に散歩がてら歩いてみる事にしよう。
「ねえねえシュウさん、おんせんって何ですか?」
「今回みたいに地面から湧き出してるお湯の事だよ。身体にいい成分が多く含まれているから大きなお風呂にして皆で入ったり、飲んだりしても美容効果があるって事で俺の祖国では人気なんだ」
「大きなお風呂って、それなかなか良いですね! しかも美容効果があるとなれば……」
ムツキが不敵な笑みを浮かべている。どうせ容器に詰めて売り出そうと考えているんだろう。
「ではお二人とも行きましょう」
村長に連れられ十数分程歩くと温泉地特有の硫黄のような匂いが漂って来た。
「これです、お湯からこの独特な匂いがしてきて……」
「これは本当に温泉ですよ村長! このお湯を使って公衆浴場を作ったら一大観光スポットになる事間違いなしです!」
湧き出すお湯は見慣れた透明の物ではなく、乳白色でトロっとしてる。試しに手を入れてみると、ちょうど良い湯加減で短時間入れただけでも手がすべすべになっていた。
「ムツキも手入れてごらんよ」
俺のその言葉で恐る恐るお湯に手を入れるムツキ。
「何ですかこれ、凄い!」
つるつる、すべすべになった自分の右手をまじまじと眺めながらムツキの瞳はキラキラと輝いていた。
俺は温泉を使った公衆浴場についての具体的な構想や仕組みを図を交えて説明し、それを聞いた村長はと言うと、すぐに村内で会議を開いて整備に着手すると興奮した様子になっている。
村長の様子を見ていると、このオーラド村が一大温泉リゾート地になる日はそう遠くないかもしれない。
「私も入りたいなー温泉」
「ここが出来たらみんなで温泉へ入りに来よう」
「はい、約束ですよ!」
村長に温泉が出来たらツアーを開催するのでまた教えて欲しいと伝え、俺達はバスに乗り込んで帰路へとついた。
臨時パートナーとしての仕事が初めてだったムツキは疲れたのか帰りのバスの中で寝てしまい、彼女が目を覚ます頃にはもうバスは王都の門の近くまで戻って来ていた。
「ムツキお疲れ様、今日はありがとう」