オーラド村再生計画(1)
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ"の共同経営者
「おっはようございます!」
翌朝、俺が”旅のしっぽ”へと訪れて開店準備をしていると、ムツキが元気よくお店にやって来た。
「ムツキ、何か今日は妙に元気じゃない?」
「昨日お祭りでいっぱい遊んだから元気になったんですよー」
ムツキは満面の笑顔でそう言い、一緒に開店準備を手伝ってくれた。
そういえばムツキもまだ年齢的には高校生ぐらい、なのに湖水浴の時もお店で留守番しててちょっと寂しい思いをさせちゃったのかな。
クラちゃんといいムツキといい、よし今度はみんなでもう少し遊ぶ機会を作ろう。
「おはようございます……」
その直後、ムツキとは対照的に目の下にクマを作って今にも倒れそうな表情でミスズがお店にやって来た。
「「どうしたの!?」」
ミスズの話によると、俺達と別れて家に帰ろうと歩いていた所を父であるマルセルさんに捕まり、取引先や親戚の人達との宴に朝まで参加させられていたので、この上ない寝不足だと言う。
「それは大変だったんだね……」
「ホントですよもうっ」
「今日は屋敷で休んでたら? 俺とムツキだけでも大丈夫だから」
「駄目ですっ、今から寝たら生活リズムが! 昼夜逆転するとお肌に良く無いんですから」
妙な所で律儀なミスズ。
今日は依頼者の所へ行く予定だったけど、こんな顔のミスズを連れていく訳にも行かない。
どうせ雑貨屋に来るお客は少ないから、ミスズには今日は雑貨屋の店番をやっていて貰う事にしよう。多少うとうとしてても大丈夫だろうし。
「ムツキ、今日は俺と一緒に依頼主の所へ来て貰えないかな」
「一緒にですか? まあたまにはそういうのも良いかもしれませんね」
ミスズもそれに納得したようで、行ってらっしゃーいと力なく手を振っている。
「俺達が留守の間に来たって言うその依頼人はどんな人だったの?」
「アンナさんっていう少しキツめの感じの女性でしたよ」
バスに乗り込んだ俺の隣、いつもの補助席へ今日はムツキが座って来た。
「別に後ろのフカフカの椅子に座っててもいいんだよ?」
「いいえ、今日はミスズさんの代わりなのでこの席でいいんですよ。それじゃあ、オーラド村へ向けてしゅっぱーつ!」
「えっ!? オーラド村!?」
すっかり王都の人からの依頼だと思い込んでいた俺は先日ムツキから渡されたメモにもう一度目をやった。
そこには確かにオーラド村という表記があり、村内での場所を示す地図も書かれている。でもここって確か村長の家の近くなんじゃ……
「オーラド村か……キツめの感じの女性……」
そう言えばさっきムツキがお弁当やら何やらを店から調達していたっけ。オーラド村までは南側の門から二時間半とか三時間とかそのぐらいだった記憶がある。
以前は強い魔物が出ると有名でハンター達も同行したがらなかったオーラド村までの道も、最近はそこまで評判も悪く無い。
村長が飼いならしていたハイウルフを討伐したのが功を奏したのか、今では徐々に行商の馬車などが行き交うようになって来ている。
新しいパートナーを乗せたバスは、オーラド村へと向けてゆっくりと”旅のしっぽ”を出発した。