王都の夏祭り(3)
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ"の共同経営者
クラ…国王様の孫娘
「あっ、いたいた! もう急にいなくなるんですもん」
ミスズと一緒にぎこちない踊りを踊っていると、ムツキとクラちゃんが手に大量のおもちゃを持って近づいて来た。
「ビール瓶倒せたんだね、良かったじゃない」
「いーや、あの店は絶対詐欺! 当たっても全っ然倒れないんですよ!」
「えっ……でも」
「うん、クラちゃんを見た途端に何故か好きなだけおもちゃ持って行って良いって言ってくれて」
「うわぁ……」
今回は公式な外出なので、クラちゃんの胸元には王宮の紋章が入ったバッジが付いている。これを見れば誰だってそうなるよな……。俺は店のおじちゃんの事が少し気の毒になってしまった。
それから俺達四人はお祭りを満喫した。
普段は飲食店の少ない王都だが、この日は宴とばかりに様々な場所で飲み物や食べ物が採算度外視の低価格で販売されている。
自炊をする事は少なく、食事の殆どをネネさんのお店に頼っていた俺もこの日ばかりは王都の伝統料理や家庭料理と言われる物を沢山味わう事が出来た。
「それにしても何だか懐かしいな、俺の国の料理に似た物もあって祖国を思い出すよ」
麺に肉や野菜を入れて炒めた焼きそばに近い物。
王都の周りでも採れる果物に砂糖をコーティングした、いわゆるリンゴ飴のような物。
溶いた麦の粉を焼いて中に具材を入れた、お好み焼きに近い物など、販売されている料理の中には日本にいた頃を思い出させる物も数多く見つける事が出来た。
「美味しいですよねっ、私も大好きです」
そう言うとミスズは話を続けた。
「これは昔、猫神様のお導きでこの地にやってきた開拓者が伝えたと言われている料理で、毎年このお祭りの時期に振舞われるんですよっ」
「えっ……猫神様の導きで開拓者!?」
「そうです、その方が様々な文明を伝え、王都の発展に貢献したって言われているんですよ」
「それはいつ頃の話なの?」
「さあ、でも私やお父様が生まれるずっとずっと前の事ですよ」
以前からこの世界には妙に日本と似ている所があるというのは薄々感じていた。
マルセルさんやロンガンさんのように、いかにも異世界風の名前の人もいるけど、ミスズやムツキなんかは考えようによったら日本風の名前にも聞こえる。
でも異世界なんだし何があっても不思議じゃない、文明もある程度発達すれば似たような着地点にたどり着くのかと納得していたが、この話を聞いてしまうとそうはいかない。
「その、開拓者の事や猫神様の事について詳しく知ってる人って居ないの?」
「そうですね……王宮に行けば少しは資料があるかも知れませんが、殆どが言い伝えなので」
「そうなんだ、ありがとう今度行ってみるよ」
そうこうしているうちに、クラちゃんは王宮に戻る時間という事で護衛の人達が迎えに来てしまった。
「じゃあ、俺達もそろそろ帰ろうか」
明日も”旅のしっぽ”の営業があるので、残された俺とミスズ・ムツキもそろそろ帰る事にした。
と言ってもムツキと俺は隣同士の部屋なので帰りも一緒。さて、明日は俺達が留守の間に来たという依頼者に話を聞きに行かないと!