王都の夏祭り(1)
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ"の共同経営者
クラ…国王様の孫娘
「シュウさん、ミスズちゃん、今夜は王都の夏祭りですよ!」
俺とミスズが朝”旅のしっぽ”へと出勤するなりムツキが唐突に話しかけて来た。
「夏祭り?」
「そうです! しばらく帰らないって聞いていたんで無理かと思っていましたけど、みんなで一緒に行きましょうよー」
「私も一緒に行く!」
「「「クラちゃん!?」」」
また警備の目を盗んで王宮を抜け出して来たのであろうクラちゃんがそこに立っていた。
「えっ……俺達は良いけど大丈夫なの? どうせまた怒られるんじゃない」
「ふふんっそれなら心配ご無用。お祭りの夜は私の外出許可が正式に出ているので護衛と一緒であれば街に繰り出しても大丈夫なのです」
得意そうにそう言うクラちゃん。
まあこの間全然遊べないって話を聞いたばかりだし、外出許可が出ているなら問題無いだろうという事で今夜の夏祭りへはみんなで行く事になった。
でもクラちゃん、夜はって事は今この時間帯はやっぱり外出許可出て無いんだよね……。
女の子たちは早速何着て行こう~と話し合っているが、異世界だけあってさすがに浴衣を着る文化は無いようだ。
「夏祭りと言えば浴衣なのにな~残念」
ぼそっと呟いた俺の言葉を聞き逃さなかったミスズが興味津々に聞いて来る。
「浴衣って何ですかっ?」
「ああ、俺の国ではお祭りの時に浴衣っていう服を着る女性がいるんだ」
近くにあった紙に絵を描いてどういう物かを説明する。
やはりこの世界に浴衣という物は無いらしいが、体に巻き付けて着る似たような着衣はあるという事が分かった。
「シュウ君の国って変わってるんだね~何か色々面白い物があって……もちろんバスも凄いしっ」
「ま、まあ国が変われば文化も変わって来るだろうからね」
さすがに異世界から来たなんて言えない。でも昨日まで張りつめた危険な日々が続いていたからか、たまにはこういう日があっても良いのかな……久しぶりにほのぼのとした空気を味わい俺は改めてそう思った。
――じゃあ、また後で”旅のしっぽ”に集合しましょっ!
あっという間に時は流れ、閉店作業を終えた俺達は一度自宅へと戻りもう一度お店に集まってから夏祭りへと繰り出す事になった。
わざわざ帰らなくてもこのまま一緒にお祭りへ行けばいいのにと思ったが「一年に一度のお祭りなんだし女の子はおしゃれをして出かけたいの!」という事らしい。
「俺は着替える服も無いしお店で待ってるよ」
待っている間特にやる事も無い俺は店の掃除をしながら考えていた。
レイク村の件は一応王宮に引き継いだとは言えどうしてもハイウルフ達が村の中で何をしていたのか、それだけが気になって仕方ない。
ラフロさんも言っていた通り、俺もあの村に夜な夜な危険を冒してまで探す程の価値がある”何か”があるとは思えなかった。だとしたら一体……
あの事件の裏にはまだ俺が知らない何か大きなピースが隠れているのか……それとも大きな何かを見落としているのだろうか。
逃げたという魔術師、いや科学者達が魔獣を従えていたというのは何となく分かる気がする。
森に入る以上は危険が伴うし、ハンターを雇うよりは明らかに経済的で戦闘力や使い勝手の面で考えても桁が違う。
せっかくほのぼのとした空気でリフレッシュしようとしていたのに……こんな事を考えてしまうのは悪い癖だな……。
少し反省した俺はお店の入り口から誰かが入って来る気配を感じて掃除の手を止めた。