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キル・ヴァルキリー・コンテクスト -終末の戦乙女狩り-  作者: 福沢雪
cell.2 ドクトルビキニと腐海な仲間たち
2/33

少年

「もう夕方だよ。そろそろ生き返ってみようか少年」


 女の声。

 その後に目蓋を突き抜け眼球を焼く、白く鋭い光。


 少年が身動ぎすると背中にシーツが波打つ感触があった。おそらく自分はベッドという物に寝かされているのだと、少年は顔をしかめながらに理解する。


「気がついたかな? 今は『冬』前の歴で言えば二〇五二年。ここは極東の小さな島国。君がいた場所とは何もかもが違う。ちなみに君が死んでから三時間が経過したよ」


 ゆっくりと目を開けると、少年の顔を覗き込む一対の瞳があった。


「ラズ……?」


 少年の問いかけに、瞳の人物がいったん視界から消えて反応する。


「んー? ラズ子と勘違い? 残念だけど、私はあの子の三倍美人だよ」


 目をしばたたいてよく見ると、女は赤いフレームのメガネをかけていた。髪も違う。ラズは短い銀髪だったが、女は黒い艶やかな髪を頭の後ろで尾のように束ねている。


 今まで少年には、白い女の顔はどれも同じに見えていた。しかし今はメガネの女がンヌヴァロだった自分より年上、二十代の半ばだろうと推測できる。自分を美人と言い切った自信家は、確かに妖しい美しさがあると思う。これも未知の言語を理解したのと同じく、戦乙女に授けられた感覚かもしれない。


 少年がそんなことを思っていると、メガネの女がニヤリと笑った。


「まずは自己紹介しようかね。私はこの『シェル』の……まあ、今は医者みたいなものかな。みんなはオリエと呼ぶよ」


 医者という言葉を聞いた瞬間、少年の脳に死の記憶が蘇った。


 あの時、自分はつる草の女に胸を貫かれたはずだった。冷たいハサミの先端が、臓器の皮膜を突き破る感覚が確かにあった。


 少年はベッド上でがばりと身を起こす。


 都合よく裸だった。胸には穿たれた跡どころか、かすり傷の一つすらない。つるに締め付けられ、陶芸のように糸切りされた両手足もきちんとつながっている。


「裸にしたのは謝るよ。ちょいと検査させてもらったからね。役得役得」


 怪訝な顔の少年を見て、オリエが再びニヤリと笑う。

 検査という言葉に疑問を感じ、少年はベッドの上で首を回した。


 隣にはもう一つ清潔なベッド。その奥には薬品の並んだ棚がある。鼻が消毒アルコールの臭いを嗅ぎとった。


 壁はひび割れ崩れかけているが、どうやらここは「医務室」という類の部屋らしい。


 入り口の脇に鏡があった。目が合った少年――自分の顔は、やはり十五歳程度だ。


「不死勇者になってから死ぬのは初めてって顔だね、少年」


 あらためてオリエを見る。長身だった。今の少年より頭二つほど背が高い。羽織った白衣の内側は、濃い紫色の水着がかろうじて胸と腰を覆っているだけでほとんど裸に近い。


 少年の脳裏に「露出狂」という言葉が浮かぶ。しかし今ひとつ意味はわからない。


「ラズ子は口数少ないからね。じゃあ一から説明しようか、と、その前に――」


 オリエが白衣のポケットからカードのような物を出した。二本指で挟んだカードに口を寄せ、「少年が起きたよ」とつぶやく。


「さて。最初に言っておくと、今この世界は滅亡の危機に瀕している。というかほぼ滅亡しちゃってる。君が戦ったアルラウネのような、『エクストラ』が暴れ回ったのが原因」


 言いながら手近な椅子を手繰り寄せ、オリエが長い脚を組んで座った。


「まあエクストラだと言いにくいから、一般人は『似人(ニビト)』って呼んでるね。あ、ラズ子は『煤けた者』と言ったろうけど、あれは死語みたいなもんだから忘れておくれ」


 死語から連想し、少年は再び死の記憶を脳に見ていた。恐怖というより不思議な感覚だ。自分は死んで生まれ変わり、また死んで生き返ったのだろうか――。


「で、私たち生き残った人間は『シェル』を結成してエクストラに対抗してる。シェルは抵抗組織(レジスタンス)というより、サバイバルのためのキャンプかな。はい。ここまでで質問は?」


 疑問はあったが、まだうまく言葉にできない。するとオリエが察したように言う。


「『この女、戦乙女ラズを知っているのか……?』って顔かな?」


 少年はこっくりとうなずいた。


「うん。ラズ子と私たちは協力関係にある。あの子はああ見えて結構ポンコツ……いや、やめておこうか。あんまり喋って少年の夢を壊したくないしね」


 オリエが訳知り顔でニヤリと笑う。その意味は少年にはわからない。


「で、話を戻すと、シェルには人間だけでなく、君のような不死勇者も何人かいるよ。後でちゃんと紹介するけど、とりあえず覚えておいて欲しいのは、君たち不死勇者は『死なないわけじゃない』ってこと。普通の人間と同じで心臓が停止すれば死ぬ。ただし――」


 オリエが意味深に言葉を切り、くいとメガネのフレームを動かす。

 その時、医務室のドアが開いて男が現れた。


「夕方になると生き返るんだ。たとえ肉体の半分を失っていてもね」


 男が銀色のメガネのつるをくいと押し上げて言った。


 メガネ男も少年より背が高い。歳はオリエより若そうだ。二十代の前半だろう。


 戦闘民族であるンヌヴァロにはいないが、他部族の中には戦わずに陣頭指揮のみを取る参謀がいた。メガネの男からはそういった手合いの印象を受ける。


「僕はスズキ・グロンキア。このシェルの代表者だよ。君の名前は?」


 スズキと名乗ったメガネ男が、人の良さそうな笑顔で片手を差し出してくる。


 その手を握ると友好が成立するようだ。ンヌヴァロは受けた恩は必ず返す。一宿ではないにしても三時間睡眠の恩はある。少年はすぐにスズキの手を取った。


 が、自分の名を口にしようとすると、「ちゅ……しゅ……」と歯の間から空気が抜けて、うまく発音ができない。感じたことのないもどかしさに、思わずスズキの手を強く握る。


 スズキがぎゃっと叫んで手を離し、泣き笑いのような顔を作った。


「いたたた……子供のくせにすごい力だね。さすが伝説のンヌヴァロ族……あ。ひょっとして、君は自分の名前を言語化できないのかな?」


 涙が滲むメガネの奥に、少年はうなずいた。


「それなら、気に入った名前が見つかるまで暫定的に『少年』でいいかな?」


 元よりプルシャとなって以来、名前で呼ばれることは少なかった。問題ないと、少年は再度首を縦に振る。


「うん。じゃあ話もシンプルにしよう。少年、僕たちのシェル、反似人組織ヘイムダルに、君の力を貸して欲しい」


 少年は眉をひそめた。あまりシンプルになっていない気がする。


「君は――あの似人を倒したくないかな?」


 メガネの奥のスズキの目は、もう滲んでも笑ってもいない。


「君たち不死勇者は蘇生するだけでなく、人並み外れた身体能力や、異能の力――『天恵(ギフト)』を持つ者もいる。でもそれだけじゃ似人は倒せない。似人の再生活動を停止させるには『特殊装備(ユニーク・ギア)』が必要なんだ――オリエ」


 メガネ男が振り返り、メガネ女がうなずいた。


研究室(ラボ)に用意しているよ。じゃ、行こうか少年」



***



 (エリア)―17《大川崎》は、旧神奈川県川崎市と、旧東京都大田区の合併により誕生した『フィンブルの冬』以前の行政区画だ。


 巨大な空港と港を有する工業地域は人・物の出入りも多い。積極的な外資系企業の誘致にも成功し、大川崎は国内で最も顕著に国際化した都市と言える。


 なかでも携帯端末シェア上位二社の生産工場や、業界二位の企業規模を誇る《ヴァルホル製薬》の研究所といった北欧企業の参入が、元々移民化の進んでいた大川崎の『人種のるつぼ』化を更に推し進めた。


 スズキとオリエ、二人のメガネが率いるヘイムダルのキャンプは、そんなA―17大川崎の大川崎B(ブロック)にある、五階建てオフィスビルの中にある。


 その最上階、五階の医務室を出て、少年は窓の外を見下ろしていた。


 黒雲で塞がれた空からわずかに射した茜色の下、崩落したビルと瓦礫の廃墟が広がっている。建物のない空間には鉄骨が剥き出しの焼け跡があった。遠くには暗く濁った海が見えた。街のどこにも人や生き物の気配は感じられない。


「少年、この街を見てどう思う?」


 自分も死んだ街を見下ろしながら、スズキが少年に尋ねてくる。


「敗者の集落だ」


 少年は率直に答えた。ンヌヴァロに戦いを挑んだ者の土地は、共同体の機能を失う。


 手厳しいな、とスズキが苦い笑顔を見せる。


「でも、少年と僕たちでは文脈(コンテクスト)が違う。敗者の集落も、やがては復興するんだよね?」


 少年はうなずいた。肥えた土地はやがて田畑になる。水場のそばは住居になる。誇り高きンヌヴァロは、略奪のために戦を行わない。


 スズキはもう一度窓の外を眺め、「それはいいね」とつぶやいて歩き出した。廊下を先導する背中は、卑屈ではないが胸を張ってもいない。


「十年前だよ。突如現れた『似人』が人間を襲い始めたんだ」


 スズキが歩きながら語り始める。


「もちろん人間は戦ったよ。自分たちの街がこんなゴーストタウンになるほど全力でね。でも似人の方が圧倒的に強かった。彼らは驚異的な身体能力と再生する体を持っていた。銃器の類はほとんど効かない。爆弾で頭を吹き飛ばしても、三日もすれば再生する。あっという間に人類の大半が――捕食されたよ」

「当時は世界の食糧危機が問題になっててねぇ。これで一気に解決だーなんて言う不謹慎な輩もいたね」


 タチの悪いオリエの補足を無視し、スズキが続ける。


「そして、十年続いたこの似人による人の喰らい尽くし――『フィンブルの冬』は、もうすぐ終わると言われているよ」


 スズキの表情は伺えない。しかし人の滅亡は時間の問題だと、声の調子が言っていた。


「だからって、僕たちは指を咥えて世界の終わりを待つわけにはいかない。ハナはまだ十歳なんだ」


「君が救ってくれた女の子だよ」と、オリエが今度はまともな補足をした。


 昨日少年が殺害されたあの戦闘。ヘイムダルの面々が駆けつけると、あの母の顔をした女の似人――アルラウネは逃走したらしい。


「ハナは生まれた時から『敗者の集落』しか知らない。こんな死んだ街でも、ハナにとっては美しい世界なんだ。だから、僕は少しでも長くこの世界を続けようと思っている」


 階段を降り、「四階」と案内板のあるフロアでスズキがドアを開けた。


「ここは居住フロアだよ。ヘイムダルのキャンプには、四十三人の人間が暮らしている。少年と歳が近いのは……男では僕とレンジくらいかな」


 言ってチラリと少年を見るスズキ。少年は無言でメガネを見返す。


 期待した反応がなかったのか、スズキはがっかりしたような顔を見せた。しかしすぐに笑顔を作り、フロアの入り口に立って片手を上げる。室内で雑魚寝していた老人や走り回る子供たちが、白い歯を見せてスズキに手を振り返す。


「スズキ! そいつ新しいワンダラー?」


 駆け寄ってきた子供が、瞳にみちりと好奇心を湛え、少年を隅々まで眺めてくる。『ハナ』と呼ばれた少女より一つ二つ上くらいの男の子だ。


「そうだよ。あとでみんなにも紹介する。それよりレンジ、リリィたちがどこにいるか知らないかな?」

「知らん! オレ、レンジ! 兄ちゃん名前は?」


 少年は躊躇した。が、名乗らないわけにもいかない。「少年」とぼそりつぶやく。


「うっへー! ショーネンだって。変な名前! よろしくな、ショーネン!」


 レンジがケラケラと笑いながら走り去っていった。スズキとオリエが少年から顔を背け、口元を押さえて階段を降りていく。目が笑っていた。


 少年は自分の頬が熱を帯びていることに気づき、少し戸惑う。


「そうそう。不死勇者と戦乙女の存在は、ヘイムダルでも限られた人間しか知らない。少年たち不死勇者のことを、一般人は『流浪人(ワンダラー)』と呼ぶよ。一応覚えておいて」


 少年は歩きながらオリエの横顔にこくりとうなずく。


 しばらく階段を降りると、踊り場の案内板に「1」が表示された。一階の細い廊下を三人で歩く。中ほどのドアの前でスズキが振り返った。


「着いたよ少年。ここがヘイムダルの影のリーダー、東洋の魔女(オリエンタルウィッチ)ことオリエ博士のラボ、『象牙の塔』だよ」


 スズキがドアノブを回して、少年を中に招き入れた。意味するところはわからないが、オリエが笑っていたので『象牙の塔』はジョークなのだろう。


 ラボの中はテニスコートほどの広さがあった。が、それはあくまで面積であり、実際はよくわからない機械やケーブルが溢れていて、室内には足の踏み場もない。


 一同はかろうじて見える床を、飛び石の要領で渡っていく。


 ラボの中央には鈍色に輝く車が鎮座していた。ドアを翼のように上方にスライドさせ、開け放たれたボンネットからは、チューブのようなものがあちこち伸びている。その先には壁面の計器類や、部屋の隅で蒸気を吹き上げる圧力釜のようなものが繋がっていた。


「オリエ博士は本来医師ではなくて科学者なんだ。専門は機械工学だよ」


 スズキが説明する間、当の博士はラボの隅でアルコールランプに蓋をしていた。


「ま、どっちもドクターだから変わらないけどね。飲むかい少年?」


 少々人を選ぶ味だけどと言って、オリエがフラスコからビーカーに琥珀色の液体を注いだ。少年がこわごわ鼻を近づけてみると、香りはコーヒーのようだがなぜか涙腺が刺激される。口に含んでみると異様な甘みで舌が痺れた。博士は甘党らしい。


「さて少年。そこのボックスの中に君の特殊装備が入っているよ――サクラ」


 激甘コーヒーをすすりながら、オリエが何者かに呼びかける。


 すると、車の運転席から人間の手を模したマニピュレータが伸びてきた。サクランボのロゴが描かれた金属製の指先が、「ここ!」というようにコンピュータの置かれた机の下をちょんと指し示す。


 そこに金属製の棺桶のような箱があった。どうやら『サクラ』は指を差してくれるだけで、箱を開けてくれたりはしないらしい。オリエ博士の偏屈な性格が伺えた。


 少年は仕方なく箱に近づき、自分でフタを開ける。


 中には――一本の巨大な栓抜きがあった。


 赤く塗装されたその栓抜きは、規格外に大きい錫杖のようにも見える。形としては、数字の「9」、あるいは雌記号「♀」の横棒を抜いたものというのが一番近い。輪の部分には、内と外、両方に鋭利な刃が輝いていた。


「遠慮しなくていいよ。触ってごらん」


 オリエ博士に促され、少年は巨大栓抜きを手に取る。ずんと重さが両手に伝わった。握りこそ細身だが、数時間前に握っていた道路標識より格段に重い。重量だけならンヌヴァロの戦士が好む大斧と大差ない。


「不死勇者の『ある細胞』を利用してエクストラの再生細胞に細胞自殺(アポトーシス)を促す……ってのがギアの構造(アーキテクチャ)だね。細胞はDNAごとに異なるから、ギアは個人個人(ユニーク)で調整が必要ってわけ。だから君にその子が扱えなければ一から設計やり直し。さて、少年に扱えるかな?」


 オリエが挑発するように口角を上げる。


 少年は返事の代わりに栓抜きを八双に構えた。埃った空気を肺に吸い、目の前のモニタ目掛けて思い切りスイングする。


 メガネ二人が蒼白の顔で悲鳴を上げた。

 が、栓抜きの輪は液晶画面が砕ける直前でピタリと止まっていた。


 重量は確かにある。しかし大斧と違い持ち手を含めた全体が重いため、この栓抜きは見た目以上に取り回しやすい。


 ぶんぶんと輪杖を振り回して満足気な少年を見て、オリエが肩をすくめた。


「……聞くだけ野暮だったみたいだね。その子の名前は《首抜き輪杖(レーヴァテイン)》。文字通り、今日から君の相棒――」

「大将!」


 オリエ博士の言葉を遮ったのは、ラボの入り口に立った無精髭の男だった。


 三十代後半くらいだろうか。ツナギの上部を腰に巻いている。汚れたタンクトップから覗く腕は、少年がンヌヴァロだった頃以上に太くたくましい。


 しかし男は足が悪いらしく、右手に鉄パイプを組み合わせた松葉杖をついていた。


「『メルベリファミリー』から入電だ! 似人が三体こっちに向かってやがる!」

「メルベリさん、夕方過ぎて焦ったかな……。トレ、《双頭の(アンフィスバエナ)》はどこにいる?」

「わからねぇ。だが外に出ている人間はいないはずだ。シャッターさえ下ろせば、ひとまずここは安全だぜ」

「あの二人はこんな時に……!」


 スズキがこめかみに手を当て苛立っている。


「やむを得ない。僕が行く。オリエ、トレ、後を頼む!」


 スズキがラボの隅へ駆け出し、ロッカーを開けた。中から銃のような、弩のような、少年には未知の武器を取り出す。


「……行こう、リンドヴルム」


 スズキがつぶやくように武器に語りかけた時、オリエが諭した。


「ダメだよ、スズキ」

「似人がすぐそこにいるんだ! あいつらの数を減らせる!」

「スズキ。君はヘイムダルのリーダー。指揮を執るのが君の仕事。みんなを守るのが君の役目。そうだよね?」


 唇を噛み締めてうつむくスズキ。やがて「すみません」とオリエに謝罪する。


 姉と弟のような二人のやりとりを聞き、少年は自分がすべきことを理解した。


「メガネ」


 スズキとオリエ、二人のメガネが同時に少年を見た。


「……男」


 自分の顔を指差したスズキにうなずき、「戦える」と輪杖を前方に突き出してみせる。


 それが戦乙女に選ばれた不死勇者の使命だ。少年に迷いはない。


「少年……」


 メガネの奥に光りが宿る。しかしスズキは首を横に振った。


「ダメだよ。確かに君は不死身だけれど、今死んだら明日の夕方まで死んだままだ。今はアンフィスバエナを待つのが一番賢い選択になる。リリィは本当に『不死』なんだ」

「倒せば、死なない」


 じっとスズキを見つめる少年。その背中にオリエが抱きしめるように重なった。膨らみの柔らかさがプルシャの宴を想起させる。固まった少年の耳元でオリエが囁いた。


「少年は言ったって聞かないタイプだね。ほら、これ付けて」


 少年の左耳に何かが差し込まれた。首元には黒いシールのようなチップを貼られる。


「この端末があれば地下でも私たちとやりとりができる。少年が出たらシャッターを下ろすから、あとは移動しながらこっちの指示を――」


 オリエ博士が言い終わる前に、少年は輪杖を担いで駆け出していた。


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