1.はじまりの予感7
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セダ宇宙ステーションの、太陽帝国政府領事館の別館に、彼らはいた。
ステーション内でもっとも警備の厳しいところだ。惑星セダからリュードまでは五千光年の距離がある。彼らは、このステーションまでともに旅してきた、惑星セトアイラスの元首、レイス・カストロワ大公とここで別れ、リュード宇宙ステーションへ向かう。そこから、惑星リュードに降りる。
大公は、セダ星人なので、惑星リュードの大気には合わない。リュードの、汚染された大気は、リュード人または、リドラ人でなくては、肺をいためる。本来、リュード人にとってもあまり、よいものではないので、シキにしても、ミンクにしても、あまり長くはいられない。それで、今回の旅行は全行程で一ヶ月、とされている。そのうち、リュードにいられるのは十五日だけになる。
その日、同行していたカストロワ大公を、見送るために、シンカたちは、領事館から宇宙船のドックのある区域へ移動した。
大公は、セダ星の政府が用意した専用シャトルの発着所で、シンカたちと別れて、セダ星に降り立つ。大公は彼らがリュードの旅を終えて、次にセダ星に立ち寄るのを、自らの故郷で待つことにしていた。惑星セダの訪問も、今回の公務の一つだ。
「大公、お気をつけて。」
金髪の青年が、愛嬌のある笑顔で大公を見送る。
「シンカ、そなたたちも、十分気をつけて、楽しい旅をな。待っておるぞ。」
背の高いセダ星人の大公が、シンカの肩を抱く。
一時的な別れの挨拶にしては、少し大げさだと、シキは感じるが、シンカはにこにことそれに応じている。この、年齢で言うとちょうど百歳くらい違う二人の友情は、端から見ている限り、理解が難しい。
「大公、約束したの、お願いします。」
シンカが見上げながら、言うと、大公は髭をなでながら笑い返す。
「なんだったか。」
「大公、やだな、忘れたんですか?」
困った顔のシンカを見て、肩で笑う大公。シンカは、むっとして頬を赤くする。
「からかって!」
「よいではないか。約束するよ。期待していなさい。」
「お願いします、レイス。」
いたずらっぽくウインクして、シンカが手を振る。最期にファーストネームで呼ぶあたりが、レクトと同じだ。血は争えんな、大公は密かに考える。
大公は、引き連れた従者とともに、シャトルに乗る。後姿を見送るシンカ。その表情は、とても嬉しそうだ。
一歩下がったところで見ていたシキとミンクは、顔を見合わせる。
「シンカって、誰とでも仲良しになっちゃうから不思議ね。でもね、大公のコレクションには、なってないんだって。」
「大体、あの変態大公を理解できる時点で、俺はやばいと思うぜ。」
「変態、なの?」
ミンクが驚く。
「っていう、うわさ。」
こそこそと、シキが耳打ちする。
「えー!」
「お待たせ、どうした?二人とも。」
ミンクは、すねたように若い皇帝を睨む。
「なんだ?」
首をかしげるシンカ。
「別に、な、ミンク。」
シキが笑う。
そこから、さらに離れたところで、ナイツの二人がその様子を見ていた。
「カイエさん、知ってます?カストロワ大公のコレクションの話。」
「ええ。聞いたことあるわ。有望な若者に支援するって言う、あれでしょ。」
「本当に見返り無しだと思いますか?」
にやりと笑うレンに、カイエは眉をひそめる。
レンは先輩の耳元で、こっそり言う。
「うわさでは、服従を求められるって。男でも女でもね。それに、ね。あの軍務官もコレクションの一人だったとか。」
「!そんな嘘を信じるんじゃないわよ。レクトさんが、そんなはずないでしょ。」
冷たい怒りを、後輩に向ける。レンは、いやらしい笑いを口元に浮かべたまま、五つ年上の女性エージェントを見ている。
「それは、どうか知りませんが。陛下は、コレクションなんでしょうかね。」
「あの様子なら、そうなんじゃない?」
「帝国も終わりですね、皇帝があんなじゃ。」
「口を慎んだほうがいいわよ。それに、陛下の政治は、少なくとも今までの歴代の皇帝よりは全然ましだと思っているわ。」
「今までが、悪すぎたんです。皇帝シンカは、まだ若い。その治世は今までに無く長いものになります。ましってだけじゃ、ダメですよ。評価に値しない。」
「・・あんた、評価できる立場なの?」
「世論がそう言っているんです。」
青年の浅い話に、カイエはうんざりする。
情報部でまともに勤められなかったから、警備なんて仕事に異動させられたくせに、何を偉そうにいえるのか。自分がすべき任務すら忘れてしまうくせに。
今回、長期の旅行だというので、カイエは臨時に派遣された。つまり、今までのナイツのメンバーでは、不安だと、レクトが判断したからだ。
その意味すら、この男は分かっていない。
「私は、レクトさんに直接頼まれたから、ナイツに参加しているのよ。それも、この旅行中だけよ。学ぶべきをちゃんと学びなさいよ。でなきゃ、私、陛下のお守りなんてごめんなんだから。」
「そりゃ、そうです。俺だって同感です。」
意味が分からないようすのレンに、カイエは肩をすくめた。
(未熟なあんたたちのために、ここにいるって言ってるのに。)
レン・ムラカミは、ナイツになる前は、情報部の調査部門にいたと聞いた。そこで、調査チーム内で問題を起して、異動することになった。が、引き取り手が無かった。
それで、軍務官が、ナイツにしたって言うんだから、軍務官もよほど、陛下のお遊びが嫌いと見える。嫌がらせ、確かにその予想は当たっているのかもしれない。
この、手におえない男は、きっと、これからも問題を起す。
その時、陛下がどう対処するのか、見てみたい気もした。そして、軍務官と親しいあの、シキという男も。
本当に、軍務官にふさわしい友人なのかどうか。
カイエの考えるそれも、シンカたちにとっては余計なお世話なのだが。
次回は来週に更新予定♪
楽しんでくださいね♪