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1.はじまりの予感5

セダ宇宙ステーションの居住区は、赤く光るセダ星を背景に、今は夜の設定になっている。

人口光源が消され、夜の時間帯は空一面が宇宙空間を映し出す。

ドームのはるかかなたに光る星は、ちらちらと数え切れない煌きを、シンカの瞳に映す。蒼い瞳はそのまま、宇宙の深淵のように深い色に見える。

傍らで見上げるミンクは、そちらの宇宙に見とれていた。

気付いた青年が、笑う。

「どうした?」

ミンクは、少し顔を赤くして、視線を本当の宇宙に戻す。

「ううん。なんだか、有名になるって大変だと思って。」

「ああ。雑誌とかテレビのこと?」

「うん。私も、なんとなく、シンカが髪の色とか瞳の色とかごまかして出かけていたの、分かる気がする。だって、どこに行ってもカメラや記者の人たちや見物人がいて、まるで私が珍しい生き物みたいに見るの。」

大学でシンカの言った一言は、そのまま翌日のニュースで放映され、ミンクは今や宇宙でもっとも有名な女性となっていた。本人は、まだ、その自覚は少ない。

シンカも、皇帝になったときの自分を思い出す。

恥ずかしいような、嬉しいような、でも、うるさいような。

シンカは、それが仕事でもあるから、我慢もできるが、ミンクは今まで気楽だった分、つらいかもしれないな。

シンカは考えていた。

正式に、発表してしまえば、今よりもっと動きにくくなる。だから、この時期に地球を抜け出して、旅行することを決めたのは正解だった。

「みんな、可愛いって言ってくれたぞ。」

「みんなって、誰?」

問い掛けるミンクに、シンカは笑った。

「政府庁舎の職員や、ブールプールの地下の友達とかさ。みんな。俺のこと、皇帝だって未だに分かってない人たちだって、ニュース見ていいなっていっていたよ。」

「シンカも、そう思う?」

「変なこと聞くな。あたりまえだろ。俺は、ミンクが誉められたり、注目を浴びたりするのは嬉しい。」

額の前髪を、さらりとかきあげて、シンカがキスする。

「うん。私、もっと、もっと勉強して、シンカにふさわしい女性になる。」

ぷっ!青年は吹き出した。

「え、なにその反応!」

「必要ないよ。そのままが好きなんだ。」

ぎゅっと抱きしめられ、少し息が苦しい。

温かいシンカの胸に、顔をうずめる。

不安なんて、どこかに行っちゃえばいいのに。ミンクは、そう思う。


卒業パーティーのときに感じた、シンカが本当に手の届かない人なんだって感じたときから、ミンクの心の片隅にその想いが住んでいる。

これからもきっと皇帝としてのシンカの姿を見せ付けられる。自分にどんどん自信が無くなる。

私なんかで、いいんだろうか。

シンカは、皇帝になったときから、姿も体格も、ほとんど変わっていない。いつか、ガンスがそっと教えてくれた。もう、成長しないのだと。歳もとらないのだと。今も、辛うじて私と同じくらいに見える。けれど、後二年したら、きっと私のほうが年上に見えるようになる。

それは、とてもつらいことだった。

そしてきっと、シンカにとっても。いずれ、何らかの形で、公表しなくてはならない。シンカの時間が、とても、とても永いことを。特別であることを。いつか隠し切れなくなるから。


今、この宇宙には、たくさんの惑星人がいる。実は時間の進み方とか、数え方はそれぞれ違っているので、一概に年齢の基準を言うことはできない。

本来、惑星人は生まれた星の時間に合わせて年齢を重ねるものとされる。だから、リュードの一年が地球で言う十四ヶ月にあたるから、ミンクやシンカは十四ヶ月に一つ歳をとるということになる。


見かけの成長と、年齢の重ね方は様々なので、セダ星人のように、長寿の人種と言えばそれはそれで、納得される。事実、セトアイラスの元首カストロワ大公は、百二十二歳だけれど、見かけは地球人で言う五十代半ばくらいなのだ。

シンカが長寿であることを公表すれば、その姿が変わらないことも、きっと受け入れてもらえるだろう。

でも、その彼と同じ出身の私が、どんどん歳をとってしまったら、それは、ふさわしい相手とはいえない。長寿の、それこそセダ星人くらいの相手でないとつりあわないかもしれない。


ああ、でも、セダ星人は他の惑星人と子供をもうけることができないのだった。

そこまで考えをめぐらせて、ミンクは小さくため息をついた。

シンカにつりあう人間なんて、いない。


その特殊な蒼をたたえる瞳をまた、見つめていた。

ずっとそばにいた。小さいときから、頼りにしていた。彼はやさしく応えてくれた。

何も不安なんかなくて、そばにいるのがあたりまえで。あの、デイラが滅びる日まで、私の十七歳の誕生日まで確かに幸せだった。

幼いころのことを思い出して、少し涙が出た。


「ミンク?」

「ううん。なんでもないの、ちょっと、昔のこと思い出したの」

「もうすぐ、帰れるよ」

惑星リュードに。そう言って、シンカはミンクの肩に腕を回した。

温かいぬくもりが、少女を落ち着かせる。


シンカも何か思い出しているのだろう。遠くを見つめる。

故郷、惑星リュード。

そこには素敵な思い出と、哀しい現実と、消せない過去が待っている。


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