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8.星に還る1

ホルターは石造りの廊下を駆け抜け、宮殿の真ん中にあたる部屋へ向かった。造りからして、こちらがより重要な人間の住まう場所だろうと、経験でわかる。

衛兵が二人、かけてくるホルターに向けて、槍を構えた。

ホルターはとまる気配もなく、突っ込んでくる。まだ、若い衛兵は、気おされ、一歩下がる。

脇にかけるレーザー銃に手を置くホルター。

「おいおい、やめとけ!」

絹の幕から、背の高い男が出てきた。

黒髪を、少しのばし、太いまっすぐ伸びた眉、黒い切れ長の瞳に、日に焼けた肌。にやりと笑う口元は、精悍な表情を魅力的に見せる。

「シキさん。陛下を、止めなくては!」

ホルターの大声に、キナリスも顔を出した。

「なにかあったのか?」

怪訝な表情で、あくまでも静かにたずねるキナリス。ホルターは、荒い息を収めて、一礼すると、話し出す。彼らしくない、早口だったが、その内容は十分それに値した。

「つまり、再び、太陽帝国のためにこの星に、危機が訪れているというのか?」

キナリスの、要約は的を得た。

「そうです。陛下はそれを止めようと、ネットワークに御自身を接続しようとしているのです。それは、命に関わります。この星のネットワークを回復したと陛下がおっしゃっていた、それはどこなんですか?」

「遺跡のことだろう。昨夜、お前たちが騒いだあの場所だ。」

そういいながら、キナリスも走り出した。

「いいのか?」

後を追いながら、シキが年下の聖帝に、話しかけた。

「あの何とかというシステムは、気に入っている。美しい、この星を眺められるからだ。それを、シンカに壊されてはたまらぬからな。」

「・・壊しは、しないが。」

分かっているのか微妙な表現のキナリスに、それ以上シキは質問することはあきらめた。とにかく、シンカを止める。

それから、ニーヒスケルスとの合流点に、シンカを連れて行く。この星から、離れる。

そこまで、考えて、ふとキナリスの後姿を見つめた。

こいつを、放って、か。

ミストレイアの戦艦が、この惑星の大気圏内に入ったのは、帝国軍の攻撃を防ぐためだろう。大気圏内の戦艦を、もし宇宙から攻撃すれば、確実に地上に生きる人々に影響が出る。つまり、戦艦グライアスは、リュードの人々を、人質に取っているのだ。

攻撃できるものなら、してみろ、と。

そして、それこそが、ルーランの思惑通り、というわけか。ここで、グライアスが直接地上を攻撃しても、帝国軍が誤ってグライアスを攻撃しても、リュードの町や村は壊滅的なダメージを負う。

シンカは、それを、自らを犠牲にして、止めようとしている。


慰霊の塔の、ひとつだけ残ったアメジストの玉をキナリスが持ち上げ、そばにたった三人は、地下に降りていく。

「これが、五百年前の、ものなのか。」

一瞬、ホルターが感嘆の声を上げた。

「こちらだ。」

キナリスの示すほうに、歩き出し、すぐに、高い天井の、六角形の部屋に出た。

天井の淡い白い光に、シンカの金髪がきらめいた。

「シンカ!」

振り向く、青年。

「シキ、キナリス。これ、見ろよ!」

シンカの言葉に合わせるように、六角形の部屋に惑星リュードの映像が現れた。それは、ぐんぐん拡大し、全体が蒼一色になったかと思うと、白いもやが現れ、不意に少し赤茶けた地表が見える。青い海と、いくつかの大陸。

その、大陸のひとつに覆いかぶさるように、大きな黒い影が映る。

映像は、影に照準を合わせ、調整されていく。

雲の上、時折、地表の都市がちらちら見える、その白い海の上で、黒々とした大きな戦艦が、高度を維持している。

通常、常に宇宙空間にある宇宙船は、地表に降りる機能を持っていない。宇宙空間でなら、どんな質量の宇宙船でも、簡単にその位置を維持できるからだ。しかし、重力をもつ惑星上では話が違う。

その、巨大な質量にかかる重力に逆らって、高度を維持するには、大量の燃料と、大出力の動力が必要となる。

今、戦艦グライアスはかろうじてその高度を保っているように見えた。

「このままじゃ、一時間と持たない!あんな巨大戦艦で惑星上空を飛ぶなんて、自殺行為なんだ!だから、俺が、ネットワークを使って、グライアスの中枢を操る。それしかない。」

シンカは、すでに、端末のキーボードを操作し始めていた。

博士衆に、一度だけ聞いた、その方法を、手際よく思い出す。

注意された。ネットワーク内は、無数の情報が行き交っています。意思を強くお持ちください。決して、目的を忘れぬよう。飲み込まれぬよう。あなたが、見たいと思った情報を、あなたの脳は自然と見つけてきて、まるであなたがそれを、遠い昔から知っていたかのように、思い出すように、見ることができるでしょう。

彼らは最後に言った。

ただし、この方法は、最終手段です。と。

不意に、右腕を、左に引っ張られた。

振り向くと、シキが、背後から左手でシンカの右腕をつかんでいる。

「はなせよ、シキ!」

そのまま、組み付かれ、身動きが取れなくなって、シンカはもがいた。

引きずられるように、いすから引き離される。

「シキさん!」

シキを止めようとするローダイスを、ホルターが引き止める。

「でも、陛下のご命令ですよ!」

食い下がる若いエージェントに、ホルターは銃を突きつけた。

「何をしてでも止める。私は、私の上司であるレクトさんから命を受けた。お前も、ミストレイアの人間ではないのか。」

「!」

ローダイスは黙った。

「はなせよ!このままじゃ、リュードに、この国にも、ダンドラにも、被害が及ぶんだ!」

「いい加減にしろ!シンカ。」

低くうなるようなシキの怒声に、シンカが黙った。

「もう、耐えられないんだ、シンカ。」

「シキ?」

「お前が傷つくのを、これ以上、見ていられないんだ!お前が、卑怯者でも、臆病者でもいい!誰を傷つけても、見捨ててもいいんだ!立派な皇帝でなくていい。お前が、生きていてくれれば、それでいいんだ!お前のためなら、何人人を殺したっていい!何を犠牲にしてもいいんだ!」

そう、叫んだシキは、一瞬抱えていた腕を緩めた。

床にちゃんと足をつけ、シンカは、つかまれている右腕を引き剥がそうと、シキと向かい合った。

その時。

シキの、右ひざが、シンカのみぞおちに入った。

身長差二十センチ以上のシキの膝蹴りは、簡単に、シンカの意識を奪った。

床に崩れるシンカを、軽々と抱き上げると、黒髪の獅子は、周りを見回した。

ホルターとローダイスは、すでにいつでも従うという様子だ。

キナリスだけが、唖然とした表情で、シキを見ていた。

「すまない。」

シキの、その一言が、意味することを、キナリスは理解していた。していたが、シキがシンカに語った言葉に、打ちのめされたまま、動けずにいた。

「俺は、ひとつだけ選べといわれれば、こいつを守ることを最優先するんだ。」

「・・それは、前から、そうだった。」

キナリスがポツリと言い、シキが、悲しげに笑った。

「太陽帝国を、信じろ、被害は最小限にしてみせるさ。」

そう言って、黒髪の大柄な男は、去っていった。

二人の男も、それにしたがった。

残された金髪の聖帝は、なんともいえない、思いを、シキの背にぶつけていた。




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