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6.過去1

お待たせいたしました…前回ちょっとBLチックな部分があって。ビックリさせてしまったかもですが、シンカくんは無事です(笑)

目も回復して。さて。彼の行動は…?

宮殿の地下、そこは、敷地の外れにある搭から降りる。

庭に出て、少し日が翳る、うす曇の冷たい空を見上げながらも、シンカが大きく伸びをするのを、聖帝は見つめる。シンカの言葉が本当だとすれば、デイラを破壊したあの大きな力が、シンカの背景にはある。やろうとすれば、この星を、再び五百年前の状態にできるということだろう。五百年前のカンカラ王朝が、今よりずっと進んだ文明であったことは、遺跡や遺物から推測された。王家に伝わる書物にも、その記載はある。

その文明を、なかったかのように破壊し尽くす。星の環境も変わり、人々はただ、生き延びるのが精一杯だった。大気の毒素は、今もなお、人々を苦しめている。

それを、起すだけの力が、シンカの背景にある。

どうするか。

協力を申し出たあいつの考えが、真意かどうかは分からないが、断る理由もないか。

まず、知らぬという事実は、圧倒的にこちらに不利なのだ。

だから、遺跡に同行することも承諾した。

今、シンカに手を出して、再び報復されてもいけない。

若干三十歳の皇帝は、あごに手を当てると、シンカが仰ぎ見る空を、ちらりと見上げる。

「シンカ。行くぞ。」

「あの、レンを開放して欲しい。」

「だめだ。お前の言うことを信じられん。」

先を歩くキナリスの背を見ながら、シンカは、ちぇっと小さくつぶやく。本人は気付いていないが、共通語ではなく、リュードの言葉になると、すっかりもとの普通の言葉使いになっていた。それはますます、シンカを皇帝らしく見せない。

慰霊の搭と呼ばれる、青白い石でできたそこは、宮殿とは違って、石のレリーフのみが白く冷たく飾っている。六角形の搭には、その中心に神々の彫像を据えられている。三体の彫像は、両手にそれぞれアメジストの玉をささげ持ち、その石が天窓から入る日差しを反射して煌く。

キナリスは、黙って石を一つ取る。

すると、その重みで下がっていた彫像の腕がかたりと小さく音を立てて少しだけ上がる。

「この地下には、この石が必要でな。お前も一つとるがいい。」

「ああ。」

シンカが、二人目の彫像から石をとる。

「三つ、ちょうどだな。」

二人が振り向くと、オレンジの髪の男がニヤニヤ笑っている。

「ルイ。」

「お供いたしますよ、両陛下。」

さっさと石を取り上げるルースに、キナリスが険しい顔をする。シンカは、穏かに笑って見せた。

複雑な思いが、そういう表情にさせるのだろう。

「邪魔するなよ。」

そう言って、キナリスが壁面の穴に石をはめた。静かに、キナリスの立つ足元の床と、石をはめた壁が、一体となって下に沈む。

「ほお。」

面白そうな声をあげて、ルースも自分のすぐ脇の壁の穴に、石をはめた。

シンカも、同様に真似る。

静かだと思っていたその装置も、地下に下りるにしたがって、かすかに機械音がしていた。五百年前の仕掛けにしては、まともに動いているほうだろう。今のリュードにこれをメンテナンスする技術はない。

降りたところに、二人もいた。

そこは、人の立つ足元にだけ灯りがつく。シンカは、それが、センサー付きの非常灯のようなものであることに気付く。本来の主照明は、別にある。それが点かないのは、主電源が落ちているからだろう。建物に被害がないことは分かる。だとすれば、非常の際のセキュリティーがかかったままで、解除されれば、再び稼動するのだ。

キナリスが先ほど壁にはめた石を、再び手に取る。二人も同様にすると、なにもない壁と思ったところが、静かに開いた。その向こうにも闇が繋がる。

石を持っていなくては、進めない、そういう仕組みなのだろう。

冷えた、乾燥した空気が、ほおを引き締める。

足元だけの明かりなので、お互いの顔は見えない。そっと、ルースの手が肩に置かれる。

シンカが、闇を嫌がるのではと、気遣ってくれているのだろう。

シンカも、そっと、ルースの服を掴む。

「この先までだ。」

通路をすすむと、壁に突き当たる。

何もない壁。

「ちょっと、これ、持っていてくれるか?」

シンカが、石をルースに預けた。

「おい、だめだ。」

キナリスが止めるまもなく、白い線が一筋シンカのほおを掠めた。

「!」

「ばか、早く石を持て!」

あわてて、ルースがシンカに石を押し付けた。

「おい、シンカ、大丈夫か?」

「あ、うん。だいじょうぶ、かすり傷だ。」

石を持って、仕方なくシンカは、片手だけで通路の壁の一部を探る。石はかなりの重さがあり、片手で持っていると、腕がだるくなってくる。

セキュリティーがかかっていることははっきりした。後は、解除するだけだ。

シンカは、暗く冷たい金属のパネルでできた壁を探りながら、一筋、継ぎ目のような凹みがあることに気付いた。それは、上下に十センチほどの長さで、幅は三ミリ程度か。

そこに、手のひらをかざしてみた。

音もなく、透明なアクリルパネルが壁から出てきた。

制御端末だ。

「へえ、そんなとこに。」

「なんだ、ルイ、お前入ったことがあったか?」

「子供の頃にな。」

「父上がお前を気に入っていたからな。」

キナリスが、不服そうに言う。

「キナリス、お前の父君はとても穏かな方だった。我儘な俺が面白かったんだろう。よく言われたぞ、キナリスはおとなしく繊細だが、こうと決めたらとても頑固だと。ルイの柔軟性が少しでもあったらとな。母君に似たのだろうと、笑っておられた。」

「昔話はやめろ。」

「いいじゃないか。俺は、お前の父君は好きだったぞ。」

「そうだ、父上は、立派な聖帝だった。」

「開いた。」

シンカの小さいつぶやきに、二人は黙った。

パネルの数箇所が淡いブルーの点滅に変わり、静かに壁に収まる。

ふいに、灯りがあふれた。

「わ。」

まぶしくて、シンカは目をつぶる。

次に目を開けると、何もない壁と思ったそこには、淡いブルーの光で精緻な模様が描かれ、それが乳白色の壁に静かに点滅する様はとても美しい。

行き止まりの壁も乳白色で、こちらにはオレンジの光の線で模様がある。模様の中心にある丸に、シンカが石を当てる。

石はふわりと解けるように吸い込まれ、そこから縦に白く強い光が光ったと思うと、二つに分かれた壁がすっと左右に開いた。

「すごいな。」

ルースが息を飲む。

キナリスも、珍しく口をあけて見上げていた。

「ここは、今まで侵入者を防ぐための装置が稼動していたんだ。たぶん、ここが解除されれば、惑星上の全ての同じ施設にも入れるようになるんじゃないかな。」

シンカは、白い大陸の、地下都市を思い出していた。

一歩入ったそこは、高いドーム型の天井に、淡いブルーの光が透けているようにみえ、その穏かな灯りが、彼らの足元までしっかりと照らす。

室内の明かりはその天井だけだ。

丸いその部屋の真中には、六角形の鈍く光る金属の機械が搭のようになっている。

シンカのリングと同じ素材のようだ。レーザーを弾く。

セキュリティーでレーザーが使われているのだから、当然機器は総てそれを弾く仕組みになっているのだろう。五百年前とはいえ、さすがだな。シンカは感心した。

この惑星が、鉱物の資源で潤っていたことがよく分かる。この機械は、当時の星間ネットワークのベースシステムだろう。このシステムで、惑星内のネットワークを維持していたはずだ。

ここからなら、今のネットワークにつなげて、フェンデルに連絡を取ることも可能だろう。

シンカは、機器を調べる。ちゃんと、カメラもある。

「これは、なんだ?」

ルースは、触ろうとし、キナリスがそれを止める。二人はまだ、石を持ったままだ。

「キナリス、ルース、石はもう必要ないよ。セキュリティーを解除したから。」

「なんだ?」

「だから、不用意に触るな。危険かもしれない。」

キナリスが切れ長の瞳で睨むと、ルースはつまらなそうに手を後ろに組む。

二人は同年だと言っていた。幼馴染だと。

思慮深く慎重なキナリスに、いたずら好きで奔放なルース。本当は、いいコンビなのかもしれない。そんなことを考えながら、シンカは、機器の上部を仰ぎ見た。天井まで続くそれは、通信設備の役割を果たしているのだろう。

そのまま、搭の上部に続いているのかもしれない。

「シンカ、ここは、これだけなのか?」

ルースがシンカの肩に手を置いて、シンカの手元を覗き込む。

「これは、なんなのだ?」

シンカは、端末に電源を入れてみた。メインスクリーンだろう、正面の一番大きなモニターに、認証を問うメッセージボックスが開いた。

シンカは、リングを、センサー部に当てた。

一瞬にして総ての機器の電源が入り、美しくさえある小さなライトが、あちこちで煌く。

「おお。」

ルースが楽しそうに声をあげた。

未処理の記録の再生をするかどうか、メッセージボックスが開いた。

「キナリス、当時の、データが、ここにある。見てみるか?」

室内を歩き回っていたキナリスが、慌ててこちらに来る。

「五百年前、いや、今もそうなんだけど、星間ネットワークって言う通信手段を使って、ほぼ総ての惑星とデータのやり取りができたんだ。個人が遠い惑星の誰かにメッセージを送ることもできたし、このネットワークを使って、国が軍隊の統率を図ったり、必要な情報を保存しておいたり。だから、今ここでは膨大な量の情報が見られる。一つ一つを見る必要はないと思うから、太陽帝国と、カンカラ王朝とのやり取りを拾ってみた。いくつかあるんだ。」

「慌てることもあるまい。とりあえず、一番上のものから見せてくれ。」


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