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3.暗躍1

のんびり更新ですが…お待たせしました♪楽しんでくださいね♪

惑星セダ。

大きく赤いその星は、大半を岩の砂漠が占める。濃い酸素と鉄分の多い惑星は酸化鉄の含まれる地質の関係で、赤い星という印象だ。確かに宇宙から見ると、それは鈍く薄い赤色をしていて錆びた鉄を思わせる。

水が少ないので点在する小さい海を人工の水路がつないでいる。それが、宇宙から見ると、白い点から放射状にのびる針のような眺めになる。


その首都ガトース・クにレイス・カストロワが降り立ち二日が過ぎた。ガトース・クの一等地に広大な面積をもつ邸宅は有名だ。

セダ星人で、最も成功した人物としてメディアでも取り上げられる。取材やら、挨拶やらで忙しい日々が過ぎる。今も新聞社の取材にネットワークで対談したところだった。


白い髪、白い髭の大公は穏かに語ると、妙に威圧感がある。彫りの深い顔、薄緑の肌、金色の不思議な光を放つ瞳。肌も瞳もセダ星では標準的なものだが、彼の政治力は太陽帝国皇帝と並び称されるほど強大だ。

彼の一言で協力する惑星元首は数十を越え、太陽帝国の十二人の大臣のうち八人までが大公の息がかかっている。年齢の若い太陽帝国皇帝より大公に付こうとするものも多いが、大公自身が皇帝を可愛がっているのことを公表しているために、大臣らも皇帝に従わざるを得ない。

帝国議会は帝政に対する諮問機関である。太陽帝国に属する惑星元首及び帝国議員が、行政機関である帝国政府に対し、審議し諮問する。そこでの議員及び元首の力関係がそのまま、惑星の力関係となるため、議会で力を示そうとする元首や議員は多い。それぞれの惑星の思惑による、一方的な意見を、上手く裁いて収集を図ったり、対立する惑星元首同士をとりなしたりする議長が、レイス・カストロワ、惑星セトアイラスの元首なのだ。

彼が、いることで、惑星セダは太陽帝国内での地位を高いものとしており、したがって、レイス・カストロワはセダ星の英雄的存在となる。


屋敷内の執務室でネットワークの取材を終えると、カストロワは白髭をなでて窓の外を眺めた。

今は、午後の日差しで赤レンガの建物の影が赤褐色に染まる。窓からの市街の眺めはいつ見ても美しいと思う。

長身のがっしりした体躯のカストロワが立ち上がると、その小さな頭部がアンバランスに見える。が、それは地球人の感覚であって、セダ星ではごく普通だ。

あごに当てられた大きな手に、重量感のある蒼い輝石のリングが煌く。セダ星でのみ採掘されるその輝石は、幸せの蒼という古語で「ルリナム」といい、ちょうど、その色合いは、彼が認める若い皇帝の瞳と同じ色だった。

それは、セダ星でのみ消費され、決して他の惑星に出回ることはない。セダ星政府が許可しないのだ。だからこそ、その名は有名であり、セダ星政府は厳しく採掘の管理をしている。

「お願いが、あるんです。」そう言って、少し照れた皇帝を思い出す。若い皇帝は、この石で婚約者に指輪を贈ろうと考えていた。セダ星では、生まれた子供に、寺院から一つ贈られる。ルリナムを所持できるのは一人一つのみ。宗教的に魂を映す鏡とされ特別な意味を持つため、それを贈ることは生涯一度だけ、変わらない愛情を分け与えるときのみとされる。夫婦はそれを二人で二つ大切にし、生涯を終えると石は寺院に還される。亡くなった人の魂を寺院に祀るという意味がある。

それを他の惑星人が手に入れることは不可能。皇帝は知っていて頼むのかどうか。いや、あれが知っていて無理を言うはずもないか。あきれるほど素直な性格だ。

カストロワは目を細めて、唯一の「友人」を想う。


この首都には全セダ星人の五割が住んでいる。惑星の全人口が八千万人と言われる。少ない。

が、個々の寿命が二百年程度あり、子孫を残すことのできる年代が二十歳から百歳程度と長い彼らにとって、人口増加、あるいは減少といったことは、あまり興味がない。必要であれば産み増やせばよい、そうでなければ自然に任せる、そう言った政策なのだ。

結局、百年前までは一億人いた人口は減っているのだが、それによって不具合を感じていないために、何の政策もとられない。

生き物は常に死の危険にさらされる。生存する環境が、悪化するほどたくさんの子孫を残そうと出生率は上がる。今、セダ星で出生率が下がりつづけるのは、環境が安定し、満ち足りているからだという意見が強い。

必要なければ自然に任せる。

素質として最も高い知能を持つといわれるセダ星人は、あくせくすることもなく、優雅に、穏かに、自分たちの惑星を最高の環境とみなして満足している。それでいながら、短い寿命の地球人などの生き急ぐ様を、まるでペットを眺めるように愛でる。

そう、セダ星人は自分たちこそ、宇宙でもっとも恵まれた、優れた存在だと考えている。


「大公、そろそろ、お時間です。ワトノ・ロシノワ元首が、首を長くしてお待ちですよ。」

先日百歳になったばかりの従者が、恭しくカストロワの前で膝をついた。

「そうか。では、伺うかな。」

裾の長い衣装は、たくさんの金糸の刺繍が施され、身につけるとずしりと重みを感じる。襟の飾り留め具をはめて、大公はセダ星、惑星元首ワトノ・ロシノワの宮廷に向かった。



今夜、大公の歓迎の宴が催される。その前に、二人での会談が行われた。

カストロワは、ロシノワの執務室に案内された。

惑星元首、ワトノ・ロシノワは百六十歳を越えており、カストロワも一目置く存在だ。長くのびた白髪の髭が、胸元でうねる。眉間のしわは深く、細い瞳は時に何を見ているのか分からない不安を相手に感じさせる。

「カストロワ大公、良くぞおいでくださった。」

カストロワは、元首の前で膝をつき挨拶を交わす。セダ星では年長者は尊敬される。ゆえに、元首としてはカストロワの格が上でも、挨拶はカストロワが膝をつく。

「お招きに預かり光栄です。」

「いや。カストロワ大公、膝をあげなされ。久しぶりじゃ。相変わらず、派手にしておるな。」

穏かに微笑むワトノ・ロシノワ。大公のうわさは様々ある。それを揶揄しているのだろう。カストロワは立ち上がるとニヤリと笑う。

「いいえ。若輩者で、セダ星元首のロシノワ殿にはご迷惑をおかけしております。」

ふん。二人は、笑い顔のままにらみ合っているようだ。

決して仲が悪いわけではないが良いわけでもない。ロシノワは大公の趣味としているコレクションを毛嫌いし、高貴なセダ星人の恥であるとそう語った記事も過去にあった。

「今回は皇帝陛下とご一緒だとか。相変わらず、趣味に忙しいようじゃな。まあ、皇帝陛下も若く美しいからな、わからんわけでもないが。」

ロシノワがしわの刻まれた頬を、引きつらせるように笑う。

対するカストロワは、あくまでも静かに微笑む。その眼は、彼の知る誰に向ける瞳より冷たい。

「陛下は大切な友人です。」

「ふん。」

にやりと笑うロシノワ。

「お前ほどのものが、地球人の血を引く人種に、友情もあるまい。何歳離れておるのだ。隠さずともよい。ここには、雑誌だの新聞だの、そう言った輩はおらん。」

「確かに、この歳であのような子供と友情などおかしなものですが。ただ、あれをそばに置くのは楽しい。そして、あれが望む形が、友達。それで近しくできるのなら、友情でもなんでも構わんのです。」

にやりと笑ってそう言ってのける大公に、ロシノワは一つ息を吐く。

(レイス・カストロワ、この男の才能は認めるが、趣味は理解に苦しむ。あのような地球人に入れ込む理由がわからん。政治的な思惑による表面的な付き合いならともかく、友情とは。)

セダ星人は義を重んじる。

地球人やその他の惑星人は、生き物として面白い存在ではあるが、彼らの欲深さはセダ星人には理解できない。このセダ星では、ここ千年、戦争というものは起こっていないし、貧しく飢えているものもいない。惑星で快適に生きていける必要な人口、産業、それらを最高のものとし享受する寛容な人種。我らセダ星人にとって、友人、とは、対等以上の者をさす。

宇宙にその名を知られた、カストロワ大公ともあろうものが、あんな子供に友情を抱くなど、例えそれが遊びの延長上であるとしても、セダ星では蔑むに値する。


「嫌われるのが恐いとでもいうのか。くだらん。くく、お前ほどのものが。」

「さて、どうですかな。あの素直な若者を、たまに壊してみたくもなりますが、それ以上に、あれが何をなすのか、見てみたい。ただ、それだけのことです。」

カストロワの言葉に、元首は眉をひそめる。

その表情はあくまで柔和。言葉には嘘がない。カストロワがこのロシノワ相手に、真の己を垣間見せるとは。

この不敵な男が、心から皇帝に心酔しているのであれば、用心する必要がある。もともと、カストロワは自分の惑星に固執しない。セダ星人の中では変わり者だ。

皇帝とセダ星とを秤にかけることもやりかねない。


「どちらにしろ、セダ星人の名を貶めるようなことはやめてもらいたいものじゃ。」

「そのようなことをした覚えもありませんが。」

カストロワの一瞬見せた素直な表情は失せ、今度は、はっきりと、にらみ合った。


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