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想造世界  作者: 篤
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血塗られた世界で

——今だ。


 サキルは本能に従い、標的へと襲いかかった。


 「ぐぅ!?」「がっ!?」


 奇襲は見事に成功し、敵は戦闘態勢を整える間もなく次々と倒れていく。

 数は多いが、皆混乱しているのか防御は脆弱だ。

 殲滅は時間の問題だろう。

 そして、戦場に新たな悲劇が刻まれ始めた。


 剣を振るたび、血飛沫が舞い、苦鳴が響く。

 その度に地面は紅く染まり、穢されていく。

 しかし、サキルにとっては何ら特別なことではなかった。

 かつて共に戦ったリセ、ホーキフ、フェイン、リガイルらと過ごした戦場とは異なり、

 今の彼は憎悪と憤怒、欲望と冷酷さが渦巻く歪な存在となっていた。


 ヒュン、スヒン


 「っっ!?」


 「ぁ……」


 サキルの剣は容赦なく振り下ろされ、敵の喉を断ち、首を落とした。

 その手際はすでに練習の域を超えていた。

 かつては相手に苦痛を与えないよう一撃で斬り伏せることを信条としていたが、

 今は違う。

 腕を斬り落とし、足を奪い、五体不満足にした上で止めを刺す。

 その過程が、サキルにとっては技術を磨く練習でしかなかった。


 「ぅぐぁぁぁ、痛え痛えよぉ!」


 「痛、ぐぅ!?」


 痛みに悶え、命乞いする敵の姿を前にしても、

 サキルの冷徹な瞳は微動だにせず、ただ淡々と刈り取っていく。

 苦鳴も絶叫も、彼の耳には何の響きも与えなかった。


 「なんだこいつ……なんなんだこいつはぁぁ!」


 敵兵の目に映るサキルの姿は、血に塗れながらも無機質な人形のようだった。

 多くの兵を一人で屠り、年若い少年の面影を持ちながら、

 その行動には人間味の欠片もなかった。


 「降伏だ……降伏する!だから命だけは——ぐっ!?……ぁぁぁ!」


 「捕虜は足りている。命がいらないなら、俺の練習台になれ」


 武器を捨て両手を上げる敵兵の足を、サキルは迷いなく斬り落とした。

 苦痛に歪む顔を見ても、表情ひとつ変わらない。


 「父ちゃん!父ちゃん!」


 出血多量で助かる見込みのない男兵に、若い兵士が縋りついて叫んでいた。

 おそらくは親子なのだろう。

 サキルが冷めた目で二人を見つめる。


 「うるさい」


 泣き叫ぶ少年兵の声にも、一切の感傷を抱かず、

 サキルは袈裟斬りにその胸を貫いた。

 無駄な苦しみを与えることなく、確実に仕留める。

 それが彼なりの“慈悲”であった。


 「ク……レ……ス」


 男は息子の無惨な死を視界の片隅に捉え、

 絶望の中で静かに命を落とした。


 「……死んだか」


 サキルは感情のない声で呟き、血の海に転がる屍を無感動に見つめた。


 「こ……この悪魔が!」


 遠巻きに見ていた兵士が、恐怖と憎悪を込めてサキルを罵る。

 だがサキルはその言葉を受け流し、冷めた瞳で振り返った。


 「悪魔、か。上等だ」


 彼にとってはどう思われようと関係なかった。

 命を奪うことは、力の証明だと信じている。

 それが正しいか否かは関係ない。

 彼自身が納得していれば、それで十分だった。


 サキルは再び剣を構え、静かに歩を進めた。

 黙々と命を刈り取り、無情に命令を遂行していく。

 かつて憎んでいた血塗られた戦場の悪魔へと、自ら堕ちていくことに気づかぬまま——











 サキルがネレネスに身を置くようになってからの日々は、

 一歩踏み外せば死に至るような過酷なものだった。


 アーズとフィルミアから生き残るための絶対条件を叩き込まれ、

 剣術や創術の基礎を確認しただけで、入隊二日目には初任務が言い渡された。

 だがその任務はサキルが知っている「戦争」とは全く異なるものだった。


 暗殺、諜報、偽装工作、戦争の裏工作——

 徹底した裏稼業を、否応なく叩き込まれた。


 情報を元に標的を見定め、影に紛れ敵を始末する。

 時には無辜の民を斬り捨てることもある。

 しかし、サキルの心は揺るがなかった。


 ——それが強者になるための過程だと信じていたから。


 殺すことで力を得る。

 命を奪うことで、自分が強くなっていると感じられた。

 それは復讐を遂げるために必要な糧だった。


 無意味な殺戮はしない。

 だが必要であれば、冷徹に命を奪う。

 それが今のサキルの信条だった。


 ネレネスでの日々は、かつてのリガイル軍とは対極だった。

 命の価値は道具同然、替えが利く存在として扱われ、命を惜しまぬ非情な任務に駆り出される。

 だがサキルは生き延び、成長を続けた。


 三年が経ったその時、サキルは新たな任務を告げられる。


 「次の君たちの任務は、近く起こる隣国イフィラとの大戦の裏工作だ。目的はイフィラ軍を裏から翻弄し、ゼルグ軍を優位に立たせること。ただ、あの『再厄リザスター』の連中も動いているらしい。くれぐれも注意してくれよ」


 あの悪魔たちへの復讐を果たす機が、ついに巡ってきたのだ——。

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