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創造作(そうぞうさ)のエンジェルフェン  作者: テンペスティア
開幕・救済戦
16/22

#16 宣戦布告

「飯…っつっても大層なモノを出せないんだよな。すまない、皆」

 橘が肩を落とす。が、その中でただ一人ふふふ、と不敵な笑いを浮かべる人物がいた。


「キッチンと事件現場ならこの僕、シャーロックにお任せあれ!」


 意気揚々と言葉を掲げる探偵は、いつもの落ち着いた雰囲気から一変、闘志に燃える熱い眼差しをしている。

 突然の事に一同は唖然としながらシャーロックの方向を見る。それから何秒かの間を置いて橘が口を開いた。


「…どうしたんだ、いきなり」

「さあ…」


 渡とニャンコも困惑の表情を見せる。そんな彼らをよそに、シャーロックは橘邸のダイニングキッチンをうろちょろと見回っている。全員がいるリビングからすぐそばにあるので移動が便利だ。


「ふむ、調理器具は一通り揃っているね。具材は…うん、調味料と卵、米もある。これなら完璧だね」


 シャーロックは既に調理の準備に取り掛かっている。流石に手伝うべきと渡が椅子から立ち上がるが、その瞬間にシャーロックに止められる。


「僕の腕前、見ててよ」


 渡ははあ、としか言えず、すごすごと椅子に再び座る。同じく座っているニャンコ、橘と顔を見合わせ、肩をすくめる。眉を八の字に歪ませる彼らの視線に気付かず、シャーロックは腕をまくり嬉々として調理を始める。

 三人には未来を予期する力等は当然ある訳無いが、何だかこれより恐ろしい事が起こる様な言い得ぬ不安感が漂っていた。何故ならシャーロックの作る物がどんどんと”青黒く変色している”からだ。


――


「はい、出来たよ。名付けて”シャーロックオムライス”!」


 曇り一つ無い満面の笑みで出された料理は、いや、物体は、黒いオーラを発して青く発光している。

 これが食べ物なのか? と悩む橘。渡から得た情報からも検討がつかないニャンコ。目の前で起こった奇跡を逃さず撮影する渡。いずれも料理にありつかない。スプーンがまるで逃げる様に皿から離れ、テーブルから落下する。


「みんな…食べないの?」


 眉を八の字に曲げながら囁く。未だ口を付けられていない一同はたじろぎながら口々に言い訳を述べる。


「見た目が悪いのは流石に僕でも分かる。しかし味は折り紙付きだ。以前出会ったイタリアのシェフが唸る程なんだよ?」

「そこまで言うなら、食べてみる…ぜ」


 意を決して渡がシャーロックオムライスを口に放り込む。男の意地と言わんばかりに咀嚼し、口の中で味を確かめる。

 冷や汗がこめかみから顎へと流れ、滴る頃合いに渡が口を開いた。


「…ウマイ」

「旨いよこのオムライス! いいや、シャーロックオムライス!」


 先程まで気後れしていた渡が手の平を返す様に評価を一変させる。彼の手は止まらず、スプーンを料理から口へと行き来させる。

 救済戦が始まってからの緊張感も相まってか、実際渡の空腹は想像を絶する物だった。故に食す。一心不乱に目の前の料理を平らげる。


「おかわり、あるかな?」


 まだ橘、ニャンコが一口も手を付けていない中で一人だけ皿を真っ白にして掲げる姿にシャーロックは涙ぐむ。


「良かった…初めての料理で不安だったけれど、こんなに嬉しそうに食べてくれるなんて……!」


 一回の食事に一喜一憂する彼らを見て、橘は微笑し、手を合わせる。

 いただきます。としっかりと言葉にするとシャーロックオムライスを口一杯に放り込む。


「本当だ、旨いよ。このオムライス。ありがとう…シャーロック」


 優れた料理番に感謝の意を述べる橘だが、どうにも人の名前を呼ぶのは照れ臭い。困った様な笑顔でシャーロックの名を呼ぶ橘に、一同を心を許した。


「渡、これが皆で食べる食卓、と言うモノですか」


 スプーンを見つめながら問い掛けるニャンコに、渡はうん、と自信満々に言い放った。


「良いかい、これが”基準”だ、ニャンコ。この幸せが僕らの日常に…していくんだ」

「日常……」


 ニャンコが皆の顔を見回す。皆が笑っている。現状に不安が募っている筈の渡も、かつて敵意の眼光を向け合ったシャーロックも、エンジェルフェンを失い、疲れ果てていた橘も。皆笑顔だ。

 頭には理解出来て、何か空想的で現実味の無かった日常と言う言葉が”色”を持ち、体感になっていく。ひしひしと伝わる心の温かさ。この日常にニャンコはほっ、と一息を吐く。


「いただきます」


 ニャンコも少し冷めたシャーロックオムライスを頬張った。


――


「ふー、食った食った、しばらく振りだなぁ、食卓を囲むのは」


 橘が腹をさすりながら満足げに言う。ソファにもたれながら彼はまどろんでいる。

 皿を片付けるシャーロックがその姿に満面の笑みを見せる。


「―――成程。これがテレビゲーム、と言うモノですか」

「おうよ、楽しいでしょ?」


 一方のニャンコと渡は橘の持っていたゲーム機で対戦型のシューティングゲームを遊んでいる。人の邸宅に転がり込んでゲームをしていると言うのも失礼な話だが、食事を気に入って機嫌を良くした橘は彼らの自由をすぐに快諾した。勿論生活周りも自由だ。


「この、シューティングゲーム…興味深いですねっ! と」


 ニャンコがコントローラーを力みながら押す。それは現在プレイしているシューティングゲームの射撃コマンド。その一撃は丁度渡のプレイしているキャラクターの額を貫く。即座に敗退を喫した渡は言葉にならない声を上げ、大口を開けたままニャンコの方向を向く。彼女は淡々としており、自分の勝利に驚きもしていない。まるで当然の様だった。


「ニャンコってシューティングゲ―強いのね…」


 実は腕に自信のあった渡は意気消沈する。


 と、橘邸のインターホンが鳴らされる。既に午後十時を回った夜の筈だが、と橘はいぶかしむがそのまま玄関へと進む。


「待って、橘さん」


 シャーロックの一言で橘が足を止める。緊迫感のあるシャーロックの声色に橘が振り向くと、シャーロックとニャンコが玄関の方向を睨みつけ、身構えている。


「どうしたんだよ、二人共?」

「橘さん……多分アイツが来たんです」


 状況を上手く飲み込めない橘だが、渡はエンジェルフェン達の緊張感から玄関の先にいる人物に大方予想が付いていた。


「リオを連れ去ったエンジェルフェン、雪奈が来ました」


 その言葉を聞いた橘の背筋が凍る。彼女に直接会った訳では無いのに、足がすくむ。それは恐らく扉ごしに感じる何とも言えぬオーラからだろうか。


「とにかく、玄関には僕が行く。橘さんはリビングに戻って渡君と部屋の真ん中に。ニャンコは二人を守って」


 シャーロックの指示で全員が動くと、それを確認した彼女は玄関に向かい、扉を恐る恐る開ける。


「―――どちら様でしょうか……ッ!?」

「こんばんわ、そしてお初お目にかかりますわ。青のエンジェルフェン」


 ―――雪奈。やはり彼女だ。

 予想していた筈だが、それでも彼女の持つ冷たい雰囲気はその場にいる全員を戦慄させても余りある程だった。


「ここにいらっしゃるのは貴方だけ、ではありませんわね。…身構えないで下さい。貴方がたと戦う為に伺った訳ではありません」

「ただ、橘ジュン様に私のエルフェンがお会いしたいと申しているのです」

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