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創造作(そうぞうさ)のエンジェルフェン  作者: テンペスティア
開幕・救済戦
15/22

#15 絶対に取り戻す!

 ボーカルの急病により解散したバンドグループ”フォーカード”。そこでギターを担当していたしがない青年、橘ジュンはボーカル担当、剣咲烈の病を治す為に奔走する。

 その只中、橘当てに謎のメールが送られて来る。そのメールに対し投げ槍気味に返信した橘だったが、その翌日彼が目を覚ますと……。

 エンジェルフェン、リオがそこにいた。


「―――はあ、成程。お前は俺の願を叶える為に現れた天使って訳か」

「全く理解が追い付かない」


 橘が頭を抱え、俯く。


「分からなくていいわ。あなたの願の為に私は戦うだけ」


 リオがそう言うと橘が寝ていたリビングから出て行く。


「どこ行くんだよ、リオ」

「私にはエンジェルフェンと戦う使命がある。その為に今から探して、戦うのよ」

「なんだよ、その使命って…そこまでして何で戦おうとするんだよ!?」


 橘がリオの肩を掴み、問い質す。その手を振り払い、リオが声を荒げる。


「アンタが願った希望を手に入れられるのは私しかいないのよ!残念だけど、今の医療じゃアンタの大切な人の声は治らないの。だから私が、エンジェルフェン達を倒して、願を…叶えてみせる!」


 彼女に返せる言葉は無い。橘が口をつぐむと、リオはそのまま行ってしまった。


 それから、リオは毎日早朝に家を出て、数日してから帰って来る様な生活を送っていた。その姿が橘には父親の姿と重なって見えた。昔の父親は本当に仕事に熱心な人だった。だが―――。

 彼は情熱を失った。母を失ってから。

 あれからだって橘は大切な人がいなくなってばかりだ。母親、父親、剣咲…皆いなくなった。

 孤独な青年はふと思う。リオもこうやって自分に黙って消えてしまうのでは無いかと。


 一度、リオに聞いてみた。


「リオ、お前は…戦って、死んでしまうのか?」

「いいえ。私を創った天に還るだけ。この戦いの後再び救済戦が始まったらまたこの世界に呼ばれるわ」

「簡単な命よ。エンジェルフェンなんて」


 悲しい事を言わないで欲しかった。リオは自分を置いて行ってしまいそうだった。これ以上、誰も自分を一人にして欲しくない。


「必ず、帰って来いよ」


 その言葉にリオは何も返さず、そのまま家を出ていく。

 もう帰って来ない様な気がした。いつもの様にふらりと帰って来る様な気もした。


(何の為に生を受けたんだかな、お互いに)


 それからリオは、帰って来なかった。


――


「…結局俺はアイツに”おかえり”って言えなかったんだ」

「俺はアイツの―――リオの居場所を作ってやれて無かったんだよ」


 橘が肩を落として大きな溜め息を吐くと、話を終えた。


「願を叶える為に戦ってるアイツには悪いが俺の願は俺自身で叶える。君達を巻き込まず、俺で解決する問題だろ」


 そうはいかないっす、と渡がつぶやく。


「僕はあのエンジェルフェン、雪奈に家をブチ壊されたんですよ。正直アイツにはこっぴどくお灸を据えて、エルフェンには修理代弁償してもらいますよ」


と、橘は大きく溜め息を吐いた。


「やっぱ俺一人で解決できねーよなぁ……」


 橘が手で顔を覆う。


「俺が出来る事に限りがあるのは俺が一番分かってる。そう…部屋を破壊出来る様なヤツにどうやって立ち向かうんだよ!」

「ああ、何だかどんどん駄目な気がして来た!」


 苦悶の表情を見せる橘の肩を渡が叩く。


「だから僕らがここに来たんです。協力して雪奈を倒し、リオを取り戻す。それがお互いの目的だから」


 そうは言うが、と橘が渡の手を払い、言葉を挟む。


「そもそもエンジェルフェンは戦い合っているんだろ? そう言ってリオを取り戻してから倒すなんて事も有り得る。君達だって会ったばかりだ、信頼出来ない……」


 ですよね、と渡はか細い声で呟く。それと共にニャンコ、シャーロックも肩を落とす。ネガティブな感情に囚われる橘の心に飲み込まれていく様だ。

 だが、渡はその気持ちに負けない。

 地獄の様に辛い瞬間に抗っていく事が人の強さだと渡は知っているから。


「―――僕は雨鵜渡。一年前に唯一の家族だった父が行方不明になりました」


 渡の突拍子も無い紹介に橘が唖然となる。


「あなたと同じです。長い間孤独を味わい、エンジェルフェンに出会いました」

「僕はあなたの苦しみを知っている。だからこそリオを助けます、同じ苦しみを味わない為に」

「それが僕の幸せだから」


 ”あなたと同じ”。その言葉が橘の心に刺さる。彼は…雨鵜渡と言う少年は、自分と同じ物を見ていた。彼の目を見れば本気だと分かる。嘘じゃない。

 彼の言う幸せ、その為にリオを助けてくれるのなら、橘には彼の思いを拒む選択肢は無かった。


「雨鵜くん、君の幸せって何だ?」

「まだ分かりません。ですが、僕の思う幸せは家族とか、友人とか、そう言う関係で満たされる事では無いみたいです。僕の幸せは…どこかもっとその先にある、みたいな」

「でも、リオを助ける事は僕の幸せに大切な事だと思うんです! だから、どうか一緒に戦って下さい…ッ!」


 そうか、と橘が呟くと今度は橘が渡の肩を叩く。


「ありがとう、雨鵜君。俺は、俺の幸せの為に、雪奈と戦ってみる。君の言葉で思い出したんだ」

「"帰らなくちゃいけない居場所が俺にはある"。その為にリオを助ける」


「俺に出来る事があるなら力になるよ」


 橘の表情は今までの疲弊しきった顔から、生気を取り戻し目には光と情熱が灯っている。


「橘さん…こちらこそ、ありがとうございます!」


――


「この青い探偵みたいな格好をしているのがシャーロック・ベルベット・ドライ。そしてツインテールで緑色のカーディガンを着ているのが僕のエンジェルフェン、ニァン・クォーツ・フィーアです」

「よろしく頼むよ」

「厄介になります、ジュン。私の事はニャンコとでもお呼び下さい」


 ニャンコがそう紹介するので渡はその通称が気に入ったのかと邪推する。が、ニャンコはそれを否定しているがまんざらでも無いだろう? とシャーロックもからかう。


「仲良さそうだな、三人共」


 橘は彼らのじゃれ合う姿を見て昔の自分達を思い出す。フォーカードとして活動していた頃だったか。

 その時住んでいたのもここだったと回想する。


(この家、皆で金出して買ったシェアハウスだったな……解散した後俺だけになっちまったが)

「何だか、忙しくなっちまったな」


 どうしたんですか? と渡が問う。すると橘ははは、と微笑んで口を開く。


「いつの間にか急に時間が速く進んできちまったみたいな気がして。俺が急に話し始めたのもあるだろうが…急転直下ってのはまさしくこの事だな」

「正直今の状況が本当に面白い。良ければここで飯食ってくか? そんな時間だろ、今」


 窓を覗くと外はもう薄暗く、渡のスマートフォンには19:09と表示されている。


「ぜ、是非! それとわがままなのですが、しばらくここに泊まらせて頂けませんか? 雪奈の急襲で住んでいた部屋がボコボコにされて追い出されたので…」

「父親を失くして部屋まで失ってって…。想像以上に壮絶だな、雨鵜君……」

「分かった! どうせここも作りはシェアハウスだし、好きなだけいて大丈夫! だってお互い様だろ?」


 橘のその声は優しく、暖かく、決意に満ちていた。渡は温もりに包まれる様な言葉にあの日の父を思い出す。


 ”今日からお前は俺の息子だ。お前のしたい事をして良いし、食いたいだけ食って良いんだ―――”


 渡が感謝の言葉を述べようとしたが、それを遮って橘がその代わり、と続ける。


「約束だ。ここにいるからにはお前達には守って貰う約束がある」

「リオを…俺のエンジェルフェンを必ず―――絶対に取り戻すッ!!」


 居候人()と二人の居候天使(エンジェルフェン)は、感謝の言葉の代わりに、大きく、強く頷いた。

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